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「……治は?」
「女子に呼び出されたらしいですよ」
「ふーん」

もうすぐ部活が始まるというのに治の姿が見当たらないことに気付いたゆきがキョロキョロと周囲を見渡した。角名に聞いてみると女子の呼び出しに対応してるらしい。その要件が告白であることはゆきにもわかった。
元々知名度のあった稲荷崎男子バレー部だったが、宮兄弟が入部したことによってその人気には更に拍車がかかった。応援にも女子の姿が明らかに増えた。宮兄弟の入部から5か月が経ち、その容姿と活躍に魅了された女子達がこぞってアピールをし始めたのだ。

「おおん?昨日ポンコツやったくせに遅刻とか何考えとんねん」
「治は優しいから断れへんのやな」
「ゆきさん俺は!?」
「侑は……言いたいことは言うやろ?」
「……まあ」

告白のため呼び出されるのは大体昼休みか放課後。放課後となれば多少部活の時間に遅れてしまうことも出てくる。侑だったら酷い言い方になっても早めに切り上げるだろう。

「モテるんやね、2人とも」
「うざったいですけどね」
「そうなん?」
「バレーの時間削られんのは嫌や」
「……そっか」

普通の高校男子であれば女子にチヤホヤされれば舞い上がってしまうところだが、女子のアピールも大好きなバレーに影響が出るくらいならいらない。特に侑はそう考えていた。

「ゆきさんもうざい思わないすか?」
「何が?」
「告白」
「……告白されたことないからわからへん」
「は!? 嘘ですやん!!」


***(侑視点)


「あ、いた!」
「ほんまや! かっこええ〜」

また来よった。日に日に体育館に女子が増えてきたのは気のせいじゃない。自意識過剰ではなく、その視線は大体俺か治や。別に勝手に見るのはええけど静かにしてくれへんかな。気が散ってしゃあないし告白や差し入れもするんだったら部活に支障がないようにしてほしい。

「あ、あの……!」
「侑くんと治くん呼んでもろてええですか……?」

事もあろうか、2人の女子がゆきさんに声をかけやがった。おいおい、ブタごときがゆきさんをパシりに遣てええわけないやろがふざけんなや。

「あ、あんな……、ふたりに用があるんやったら、なるべく部活の時間に影響しないようにしてくれると助かる」
「「!!」」

いい加減我慢の限界だし一発バシっと言ってやろうと思ったら、ゆきさんが俺らの言いたい事を優しく代弁してくれはった。

「1年でレギュラーなって、プレッシャーもあるんやと思う。部活の時は、練習に集中さしてあげたい」

あの人見知りのゆきさんが、初対面の女子に対してこんなに喋っている。しかもその内容は俺らを思ってのことや。俺らのために、物申してくれている。さっき俺が「バレーの時間削られんのは嫌や」って言ったのを聞いて、ゆきさんなりに考えてくれたんやろか。感動で泣いてまう。

「ごっ、ごめんなさい!」
「出直しますね!」
「うん。……あと、見学する時は上の方がええよ。ボール、当たってまうかも」
「は、はい!」
「ありがとうございます!」
「ううん……いつも応援ありがとう」

女神か。優しすぎるでゆきさん。そういうとこもほんま好き。

「マネージャーめっちゃ美人やんなあ!」
「うちのクラスの男子噂しとったわ!」

女子達は頬を染めて少し興奮気味に体育館を後にした。ゆきさんはその後姿を見送ってほっと胸を撫でおろした。うんうん、知らん人とあんな喋って緊張したんやろなあ。頑張ったなあ。

「ゆきさん……!」
「?」
「あの、下心とかないんでちょっと頭撫でさせてもろてええですか」
「え……嫌や」

ダメ元のお願いは普通に却下された。


***
 

もうすぐ体育祭や。俺のクラスでは今日出る種目を決めた。全員参加のヤツと、ひとり一つは何かの種目に出場せなあかん。うちのクラスは運動部多いからけっこうええとこいくと思う。とりあえず治のクラスには勝ちたい。

「ゆきさん何に出るんですか?」
「大したものには出ぇへんよ」
「何ですか?」
「……」

ゆきさんは何に出るんやろか。あまり運動できるイメージはないけどどうなんかな。聞いてみたらなかなか答えてくれなかった。言いたくないんやろか。けどゆきさん応援したいし。俺はじっとゆきさんの言葉を待った。

「……おたまリレー」
「おたまリレー?」
「おたまにピンポン玉乗せて落とさんように走るやつやろ」
「うん」

そういやそんなんもあったな。リレーと言っても速く走らなくてええから、うちのクラスでは運動苦手な女子が選んでた気がする。

「私、運動神経ないからそんくらいしかできるのなくて……」

ゆきさんは恥ずかしそうに視線を右下に泳がせた。運動苦手なんやなあ……くっそかわええ。

「めっちゃ応援します!!」
「やめてや、恥ずかしい」

そんなんめっちゃ応援するに決まっとる。絶対見よ。

「……ふたりは、何に出るん?」

少し前までのゆきさんやったらここらで会話は終了していた。しかし今、ゆきさんは俺達に質問した。会話を続けようとしてくれたことに喜びが隠せない。少しずつ、ちゃんと進展しとるんや。

「俺はリレーと借り物競走と100メートル走!」
「俺はパン食い競走とリレーと走り高跳び」
「あ、部活対抗リレーも出ます!」
「大活躍やなぁ」

ゆきさんに質問されたことが嬉しくてつい食い気味に答えてしまった。そうなんです大活躍なんで見てほしいです。

「応援してください!!」
「うん」
「マジすか!?」
「え、うん」
「あかん……俺優勝できる気しかせぇへん……」

まさかこんなあっさり頷いてくれるとは。ゆきさんの応援があったら他の応援なんかいらん。いっそゆきさんの声を聞くために、サーブの時みたいに黙らせたいくらいや。体育祭、楽しみやなあ。



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