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会場について、トイレに行ったゆきさんがなかなか戻って来なくて気が気じゃなかった。北さんに「子供じゃないんやから」と言われたけど心配なもんは心配なんや。ゆきさんが一人で歩いてたら絶対ナンパの一つや二つある。東京の奴チャラそうやし。

「あ! ゆきさんおった!」

やっと見つけた。視線は集めてるけど無事みたいや、良かった。

「東京モンにナンパされてんやないか心配しとったんですよ」
「ナンパなんてされたことないから大丈夫」
「え、嘘ですやん」

ゆきさんがナンパされたことないなんてどんな冗談かと思ったけど、むしろ美しすぎて普通の神経だと声をかけられないのかもしれない。そう思うと納得した。

「ゆきちゃんはっけーん!いやーぁ今年も可愛いネー!」
「……どうも」
「!?」

けど世の中普通の神経してない奴なんていくらでもいる。ゆきさんを馴れ馴れしく呼んだのは俺の知らない奴だった。友達か?いや、ゆきさんの反応を見る限り親しそうではない。むしろちょっと戸惑ってはる。そういうことならコイツは敵や。俺はガンを飛ばしてゆきさんを背後に隠した。

「アレ?ゆきちゃんいつの間に番犬なんて飼ったの〜?」
「侑、邪魔……」
「コイツ危ない感じがします」
「失礼な!」

ジャージに書いてある文字は白鳥沢……牛島くんがいるとこか。

「紺野さん、集合やて」
「うん、わかった」
「ワーオ!コレが噂の宮ツインズね!」

コロッケ片手にやってきた治と俺を交互にジロジロ見る白鳥沢の奴。なんや、俺のこと知ってたんか。コイツ絶対性格悪い。つーか治、何試合前にそんな油っこいもの食っとんねん。

「でも……なーんかイメージと違うなァ〜」
「おん?」
「もっとギラギラしてると思ってたけど……余裕で勝てそう?みたいな?」

むかつく。煽られてるだけとわかってはいてもイライラが治まらない。

「侑」
「!」

青筋を浮かべる俺のジャージの裾をゆきさんがくいっと引っ張って、怒りが秒でどこかに吹っ飛んだ。何そのかわええ仕草。

「大丈夫。試合になったら、ちゃんと強いしかっこええから」
「「!!」」

ゆきさんの力強い言葉にこみ上げてくる何かが抑えられずにユニフォームの胸元をぎゅっと掴んだ。

「ゆきさん……もう……ッ!」
(悶えてる……)


***
 

インターハイ全国大会、稲荷崎高校は準決勝で敗れ3位の成績に収まった。これを機に3年生は引退、そして2年生中心の新体制へと切り替わる。先程新体制の役職とレギュラー発表が終わったところだ。

「あれ、ゆきさんは?」

侑は貰ったばかりのユニフォームを誇らしげに腕に抱え、ゆきの姿を捜していた。入部した当初から1年生ながらにユニフォームを貰い活躍はしていたものの、番号が繰り上がって一桁になったことは素直に嬉しいらしい。ゆきを捜しているのはおそらく褒めてほしいからだろう。しかし解散した後ゆきの姿は体育館内に見当たらなかった。

侑に捜されていたゆきはというと、部室棟の裏で北と並んで座り込んでいた。会話はない。膝を抱えて顔をうずめるゆきに対して、北は小さく笑みをこぼした。

「……ふ」
「……何で笑うん」
「何で紺野が泣くんやろ思て」
「だって、嬉しいやんか」

膝から顔を上げたゆきの目元は赤くなっていた。

「北くんがちゃんとやっとんの、私中学から知ってたもん」
「……うん」

北が監督からキャプテンに指名されたことを、中学からの同級生であるゆきは誰よりも感慨深く思っていた。
今まで北は一度も試合に出られないと腐ったことはなく、バレーに対する姿勢は常に真っ直ぐだった。そんな北を近くで見てきたゆきは彼のことを尊敬していたし、自慢の友人だとも思っている。

「あかん、また泣けてきた……」
「何でやねん」
「まだそばにいてな」
「はいはい、後輩に泣き顔なんて見せられへんもんな」
「ん……」

まだまだ泣き止むのには時間がかかるようだ。発表の場ではなんとか堪えていたものの、解散と同時に体育館から姿を消したのは部員達……特に後輩に泣き顔を見せたくなかったからだ。そんなゆきにいち早く気付いたのはやはり北だった。

「北くんありがとう」
「何や急に」
「私、北くんにマネージャー誘って貰えてよかった」

北の日頃の努力が報われた、その瞬間に立ち会うことは名前のマネージャーとしての一つの夢だった。そして名前の願望はもう一つ。

「私もね、めっちゃ楽しみ」
「?」
「みんなが勝つとこ、いっぱい見たい」
「……おう」



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