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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -

09


 
「あのー……手伝いましょか?」
「俺らんとこ1年で交代で雑務やるように言われとるんです」
「えっと……」

ゆきさんの困った声が耳に入って周りを見渡すと、案の定他校の奴らが絡んでいた。あれは大阪の1年や。あの女の先輩がいない時を狙いおったな……まったく油断も隙もない。

「うちのマネージャーに許可なく話しかけんなや!」
「何やねん、お前の彼女ちゃうやろが!」
「俺らはマネちゃんおらんねん!ちょっとくらい癒されたってええやんか!」
「知るか!ゆきさん怖がっとるやろが!」
「えっ、すんません!」

お前らみたいに図体でかいやつらがいっぱいおったら威圧感与えんねん。どうしても話しかけたいんだったら俺に許可とって、俺がゆきさんの隣におるところで5メートルくらい離れて跪いて話しかけろや。

「ううん、怖ないよ」
「!」
「けど、喋るの得意やないから……ゆっくり喋らしてほしい」
「「「はい!!」」」

俺の心配をよそに、ゆきさんは初対面の奴らとコミュニケーションをとっている。

「……ありがとう」
「!?」

そして更に、笑った。え、嘘やん。ぎこちなくて明らかに作った笑顔だけど、確かに笑った。作り笑顔でもめちゃくちゃかわええ。大阪の奴ら固まっとるやないか。

「あ……あかんあかんあかーん!!お前ら見んなや!」
「何でや!」
「独り占めすんなや!」
「俺らは合宿だけなんやぞ!」
「俺やってゆきさんの笑顔初めて見たんやぞ!?」
「エッ」
「は?」
「侑……お前嫌われとったんか……ドンマイ」
「違うわ!」


***


「……はあ」

大阪の奴らを追い払った後もショックを隠しきれない。だって、俺があんだけ躍起になって笑かそうとしてたのに……こんな簡単に、しかもよそ者に笑ってくれるなんて酷ないか。

「侑、私何かあかんことした……?」
「……」

ちょっと困った表情をしたゆきさんが項垂れる俺を覗き込んできた。かわええ。ゆきさんは何も悪いことはしてなくて、俺が勝手に沈んでるだけや。むしろゆきさんにとってはいい傾向やんな。それなのに喜べない俺は自分でもガキだと思う。

「俺が笑わしたかった……」
「え?」
「俺が、ゆきさんを笑顔にしたろ思てたのに……」
「!」

こんなん俺の自己満やし、ゆきさんに言ってもどうしようもないのに。「ガキか」と呆れられても仕方ない。

「侑そんなこと考えてたん……」
「……」
「ふふ、おバカさんやねぇ」
「!!」

優しい声色にバッと顔を上げたら、ゆきさんは口元に手を当てて笑ってはった。作り笑顔じゃない、自然のふんわりとした笑顔。俺がずっと見たかった笑顔や。あーもうほんまゆきさんズルい。ここで笑顔見せてくれるのはズルい。

「侑の前ならいくらでも笑えるよ」

あかん、いきなりそんなんされたら俺の心臓がついていけへん。


***

 
「海やーーー!!」

合宿最終日。3日間の鬼のような練習をこなしてきた俺らに与えられたご褒美は海水浴だった。やっぱ海ってええなあ。家の近くは海水浴できる海ないから、おそらくこれが今年最初で最後の海になるだろう。しかしはしゃいでばかりはいられない。

「ゆき浮き輪持ってきたん?」
「はい。泳げへんから……」

何故ならそこに天使……そう、水着姿のゆきさんがいるからや。ゆきさんの水着は紺のビキニ。模様が一切入っていないシンプルなやつで、上から羽織ったパーカーがいい感じにエロさを演出している。
てかあんなに泳ぎたいって言ってたのに泳げへんのかい。ゆきさんの手には浮き輪があって、さっきから膨らまそうとしてるけどなかなか膨らまない。俺が膨らませてあげたい。けどそんなことしたら間接ちゅーになってしまう。

「紺野貸してみ。こんなんアランやったら一瞬やで」
「ほんま?」
「おん。けど……その、ええんか?」
「やってくれたら助かる」
「わ、わかった」

通りすがりの北さんがゆきさんから浮き輪を奪ってアランくんに渡した。北さん、あんた何もわかっとらん。アランくんは間接ちゅーに戸惑ったけど当の本人も全く気にしてなかった。そんなんだったら俺が膨らましたのに。

「尾白くんすごいなあ」
「別に普通やろ」
「ありがとう」
「! おん」

あっという間に膨らんだ浮き輪を受け取って、ゆきさんは嬉しそうな笑顔を見せた。
この合宿中、ゆきさんには変化が見られた。多分意識的に笑うようになったと思う。何がきっかけかはわからんけど、人見知りを克服しようと頑張ってはるんだと思う。ええことなのにやっぱり素直に喜べない自分がいる。ゆきさんの笑顔は俺らだけが知ってればええのに。よそ者にそう簡単に見せてたまるかって思ってしまう。

「ゆきをよそ者に取られたない」
「!?」
「顔に出とるよ〜?バレバレ」

さっきまでゆきさんの隣におった女の先輩がいつの間にか俺の斜め後ろに移動していて、俺の胸中を見透かして意地の悪い笑みを浮かべていた。

「かの有名な天才セッターをゆきが手懐けてるとは思わんかったわー」
「……」

別に手懐けられてるわけじゃないと言おうと思ったけど、多分説得力ないんやろなと思ってやめた。てかこの人胸でかいな。バレないように盗み見たつもりだったのに「スケベ」とけっこう強めにどつかれた。姐さんって感じや。ゆきさんが慕うのもわかる。

「不器用なゆきが頑張ってるんやから、見守ってあげてよ」
「……うす」

もちろん邪魔するつもりはない。今日だって元々見守るつもりだったし。ただし下心全開でゆきさんに近づく奴は許さん。
浮き輪を装着して波に向かうゆきさんは小走りや。ほんまに楽しみにしてたんやなぁ。後ろをついて歩く2年生はその姿を微笑ましく見ている。波打ち際まで辿り着いたゆきさんは豪快に海に入り、そしてされるがまま波に打ち戻された。

「ああんもう何なんあの子!?持ち帰りたいわあー!」
「痛ッ! ちょ、叩かんでください!」

悶える気持ちはわかりますけれど。持ち帰るのはあかんです。

「……想像してたんと違った」
「せやなぁ。俺が引いたろか?」
「! うん」

その後、アランくんが浮き輪を引っ張ってくれてゆきさんは誰が見てもわかるくらいに海の中ではしゃいだ。まさかゆきさんがこんなきゃっきゃするとは思わんやんか。写真撮りたい。携帯持ってくればよかった。

カシャ

「……くれ!!」
「やだ」

角名のケチ!てか何で水着でスマホ持っとんねん。



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