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- ナノ -

04


 
(矢巾視点)

「渡くん渡くん!オススメの壁打ちスポット教えて!」
「んー……あそこかな。凹凸いっぱいあるから楽しいと思うよ」
「確かに!」
「また渡と古賀がマニアックな話してる……」
「リベロあるあるだよ」
「ねー」
「あーはいはいそーですか」

最近マネージャーとして入った古賀とは1年の時に同じクラスだった。まあそれなりに話す方だったけど、バレー経験者だなんて聞いてない。むしろ俺がバレーの話をすると途端に話題を変えようとするから、バレーに嫌な思い出があると思ってたのに。
いや、多分嫌な思い出があるのは事実なんだろう。けれどそれを克服させたのは多分、及川さんだ。蓋を開けてみれば名字はかなりのバレーバカだった。
とりあえず念願のマネージャーが入ったことは素直に嬉しい。古賀が相手だから色めきだった気持ちにはなれないけど。

「壁打ちもいいけど、パス練なら俺付き合うよ?」
「うっ……私も渡くんとパス練したい……けど……」
「認めてもらうまでは、ってやつ?」
「……うん」

古賀は中2でバレーをやめていて、マネージャーになったのは2年のブランクの勘を取り戻すためらしい。何で女バレに入らなかったのか聞いたら、「新体制が固まるこの時期に入る勇気はなかった」とのことだ。
自主練の時間になると一人壁打ちをするものだから、俺も前に相手してやろうかと声をかけたことがあった。そしたら古賀は「みんなに認めてもらうまでは一人で練習すると決めた」と言った。変なところで頑固な奴だと思った。

「もうだいぶ馴染んだと思うんだけど……なあ?」
「うん。誰に認められてないって思ってるの?」

古賀のマネージャーとしての働きぶりに文句のある人はいないと思う。実際3年生からは普通に可愛がられてるじゃん。

「認められるどうこう以前に、私国見くんに嫌われてる気がするんだよね……」
「そうかぁ?」
「まあ……確かにあまり話してないな」

出てきたのは1年レギュラー、国見の名前だった。確かに金田一とはよく話してるの見るけど、国見と話してるのはあまり見たことがない。

「国見は元々口数少ないから気にしなくていいんじゃね?」
「悪い奴じゃないから、仲良くしたいなら積極的にいっていいんじゃないかな」
「……うん、頑張ってみる!」


***


「国見くんお疲れ様!」
「……どうも」

頑張ると意気込んだ古賀は早速次の休憩時間、自ら国見に歩み寄った。それを遠くから見守る俺と渡はさながら保護者である。

「タオルいる?」
「いえ、大丈夫です」
「そ、そっか」
「……失礼します」

……終わった。古賀のタオルを断って国見はその場から離れた。いやまあ実際まだ汗かいてなかったし、本当に必要なかっただけなんだろうけどさ。古賀は目に見えてしゅんとしてしまった。

「なんかさ……」
「うん?」
「猫に構ってもらえなくて落ち込む犬みたいだな。こんな感じの動画ユーツーブで見たことある」
「……馬鹿なこと言ってないでほら、フォローしに行くよ」


***


「国見何で古賀さんのこと避けてんの?」
「……は?」

部室で帰り支度をしながら金田一が国見に尋ねた。その後ろで着替えていた俺は心の中で「金田一でかした」と褒めて、会話に聞き耳をたてる。隣の渡も同様の反応だ。

「……別に避けてるつもりはないけど」
「でも古賀さん、国見に嫌われてるかもって落ち込んでたぞ。可哀想だろ」
「……」

コミュニケーションをめんどくさがる傾向のある国見が長時間誰かと談笑している姿は滅多に見ない。でも、対古賀に関しては意識的に早めに会話を切り上げているように見えた。

「前にさ……」
「?」
「古賀さんに頭撫でられたんだけど……それを及川さんに見られてて、その後すごくめんどくさかったんだよね」
「……」

つまり、原因は古賀じゃなくて及川さんだったってことか。なんとなく想像はつく。古賀をバレー部に引き入れた及川さんは、古賀のことを気に入っている。恋愛感情があるかは微妙なところだけど、自分を差し置いて古賀が他の3年生達と仲良くしていると面白くなさそうに拗ねたり文句を言ったりしている姿はもはや見慣れてしまった。

「及川には俺が言っとくから、古賀のこと避けないでやってくれ」
「避けてはないですけど……はい」

こんな理由で古賀の目標が達成できないのはさすがに可哀想だ。見かねた岩泉さんがフォローしてくれた。


***(夢主視点)


昨日は国見くんとうまく会話を続けることができなくて少し落ち込んだけど、いつまでもくよくよしてるわけにはいかない。今日は国見くんと仲良くなるためにしっかり対策を練ってきたのだ。

「国見くん、塩キャラメルだよ〜」

朝コンビニで買った塩キャラメルを片手に、部室に向かう国見くんに声をかけた。国見くんは塩キャラメルが好きだと、矢巾くんが情報を提供してくれたのだ。

「……ふっ」
「わ、笑った!」
「だって古賀さん……必死ですか」

わざわざ国見くんの好物を用意するなんて、やっぱりやりすぎてしまっただろうか。国見くんのレアな笑顔は見られたのは嬉しいけど恥ずかしい。

「ごめん、物で釣るなんて卑怯だよね……」
「貰いますけど」
「あ、はいどうぞ」

国見くんは私が手を引っ込める前にその上にあった塩キャラメルを掴み取った。貰うは貰うんだ。

「……チョコレート好きですか?」
「うん、好き!」
「じゃああげます」
「! ありがとう!」

塩キャラメルと交換でチョコレートを貰った。しかもこれ、CMで見て食べてみたかったやつだ。受け取ってすぐに包装を開けて口に含んだ。
お菓子を交換するなんて、少し距離が縮まったんじゃないだろうか。塩キャラメルを口に含む国見くんを横目で見ながら、口いっぱいに広がるチョコレートをしっかりと味わった。


***


「ねえ国見ちゃん、さっきさよりちゃんに好きって言われてなかった?ねえ何で?」
(めんどくさい……)



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