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03


 
「やっほー」
「……こんにちは」

あれから数日経った月曜日。及川はバレー教室に足を運び、片隅で一人で壁打ちをするさよりに声をかけた。

「まだ終わるまで時間ありますけど……」
「さよりちゃんに会いに来たんだよ」
「はあ……」
「あれ、もうちょっと嬉しそうな反応してくれると思ったのに」

甥っ子のお迎えに来たのだとしたらまだ時間が早い。どうやら及川の目的はさよりにあるらしい。
あの一件でさよりがバレーにまた向き合うと決めたのは間違いないのだが、具体的なアクションを起こした話は及川の耳に入ってきていなかった。

「女子バレー部には入らないの?」
「はい。中途半端な時期ですし……ここで少しずつ勘を取り戻して、大学でバレー部に入ろうと思います」
「ふーん」

聞いてみるとどうやら部活に入るつもりはないらしい。確かにさよりの言い分もわかるが、及川は少し勿体ないと思った。もちろんここでの練習が無駄だとは思わない。それでも部活に所属して得られる経験値の方が遥かに多いはずだ。さよりの元々の技術は、ちゃんと練習を積み重ねれば強豪校を狙えるレベルだと評価していた。

「じゃあウチのマネージャーやりなよ」
「え……」
「もちろんマネージャーの仕事はきっちりやってもらうけど、自主練の時間なら練習相手してあげるよ?」
「!!」

及川の提案はさよりにとってかなり魅力的に聞こえただろう。及川が県内でもトップクラスの実力者であることは事実。その及川に練習相手をしてもらえるなんて、普通頼んでもできないことだ。
しかしさよりは悩んだ。マネージャー業をやることに抵抗はない。けれど、今までバレーから逃げていた自分が急にマネージャーなんて、良く思わない人もいるはずだと考えた。

「ここで小学生相手のパス練とか壁打ちしてるよりはずっとためになると思うけど」
「で、でも……」
「うちのリベロ、けっこう優秀だと思うよ」
「!!」

揺らぐさよりを見て及川は更に追い打ちをかけた。確かに強豪校のリベロがどんなプレーをするのか、間近で見られるのはさよりにとって嬉しいことだった。

「まあ嫌なら無理強いはしないけど」
「っ、あの……!」

引こうとしたところを控えめに止められて、及川はしてやったりと微笑んだ。

「まずは、マネージャーの仕事だけきっちりやらせてください。練習相手をしてもらうのは、皆さんに認められてからにします」
「!」

想定通りに動くと思いきや、さよりは及川が思っていたよりもずっとストイックな性格をしていた。


***(及川視点)


練習相手をするという餌を吊り下げれば簡単に飛びつくと思っていた。けれど、さよりちゃんは俺が思っていたよりもずっとバレーに真摯でストイックだったようだ。
さよりちゃんは宣言通りマネージャーとしての仕事をきっちりこなしてくれている。そして部活後の自主練の時間になると監督と俺に許可を貰って一人壁打ちを始める。その姿が健気で相手をしたくなるけどぐっと堪える。
練習相手をしてもらうのは他のバレー部員に認めてもらってから……さよりちゃんはそう言ったけど、約2週間、これだけ一生懸命働いてくれてるんだからみんなとっくに認めてると思う。

「さよりちゃん俺のタオル知らない?」
「ステージの上に置いてましたよ。私取ってきますね!」
「やめときなさい、汗臭いから」
「気になりませんよ?花巻さんいつもいい匂いします」
「え、マジ?制汗剤のおかげだわ」
「私その匂い好きです」
「ぐうかわ」
「ぐう……?」

マッキーとも早速打ち解けているみたいだ。主将として嬉しいことではあるんだけれども、マッキーに近づきすぎるのはやめなさい。思いっきり心の声洩れてるじゃん。マッキーの制汗剤の匂いは今度チェックしておこう。

「あ、松川さんシューズの紐解けてますよ」
「ほんとだ。古賀ちゃん結んでー」
「えっ、あ、はい」
「いや冗談だよ」
「良かった……私蝶々結び下手なんです」
「……そういう問題じゃないんだけどネ」

マネージャーだからって選手の足元に跪いて靴紐結んであげるとかないから。なんか怪しい関係に見えちゃうから。特にまっつんの場合確信犯だから気をつけなさい。今度注意しておかないとな。

「古賀、お前も適度に休憩入れていいんだからな」
「はい!ありがとうございます」
「あとボール磨いてくれただろ?ありがとう、いい感じだ」
「はい!いいえ!」
「どっちだよ」
「えへへ。岩泉さんは細かいとこまで褒めてくれるから嬉しいです」

ハイ岩ちゃんさりげなく好感度上げるの禁止ー!さよりちゃんがボール磨いたり倉庫の掃除したりしてくれてるのくらい俺だって気付いてますし!?
てか、さっきからさよりちゃんも何なの。他の3年生に懐きすぎじゃない?「えへへ」なんて可愛い笑い方俺にしてくれたことないじゃんか。

「さよりちゃん」
「はい、何ですか?」

別に嫌われてるわけではないと思う。ちゃんと主将としてたててくれてるんだろうなっていうのも感じている。けど……なんていうかな、俺が求めてるのはそういうのじゃなくてさあ……。

「……あーもう!」
「わっ、何するんですか!」
「うるさいバーカ!」
「ええ!?」

俺より他の奴に懐いてるのがむかつく。ってことで思いっきり頭をわしゃわしゃしてやった。

「い、岩泉さん!及川さんが小学生に退化してしまいました!」
「数発殴れば大人しくなる」
「わ、わかりました……!」
「ちょ、やめてよ!?岩ちゃんに忠実なの何なの!?」



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