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after3


 
「わ、すごい! このお肉柔らかい!」
「うんそうだね」

今日はさよりにプロポーズをすると決めて、ドレスコードがあるようなフレンチのレストランを予約した。特に記念日というわけではない。さよりも理由は聞いてこなかった。
地球の裏側、アルゼンチンに行くと打ち明けた時、さよりは驚くわけでも悲しむわけでもなく「そうきたか」と笑った。そのくしゃっとした笑顔を見た時、既にプロポーズすることは心に決めていた。
婚約指輪は買ってある。サイズは調べてあるから間違いないはずだ。頭の中で何度もシミュレーションしたけど、なかなかスマートに言葉は出てこなかった。
地球の裏側という超遠距離恋愛に7年も付き合ってくれているさよりは、俺には勿体ない程の女性だと思う。こっちで一人前になるまではと意地を張ってだいぶ待たせてしまった。一般的なカップルより会う頻度は少なくても、この7年間で育んできた感情はそう簡単には揺るがない自信がある。
ただ、アルゼンチンに帰化した俺と結婚することはさよりの生活……いや、人生を大きく変えることになる。今まで築いてきた交友関係もキャリアも捨てて俺と添い遂げてほしいなんて、さらっと言えるわけがなかった。

「徹さん食べてる?」
「うん食べてる……食べてるよ」

正直緊張して味なんてよくわかっていない。さよりの方は美味しい料理にご満悦のようだ。喜んでもらえたのなら何より。可愛い笑顔を見ていたら、この後するプロポーズにも喜んでくれるだろうかと考えてしまって胃がキリキリした。

「さより……今日は大事な話があるんだ」
「昨日カーペットにお醤油零したこと?」
「え!? な、何でバレたの?」
「処理が甘い」
「ごめんなさい」

日本に来て3日目の昨日はさよりの家に泊まらせてもらった。晩ご飯に出前の寿司を食べている時、カーペットに醤油を零してしまったことがバレていたとは。ティッシュで拭き取っただけじゃ不十分だったか。じゃなくて。今はそんな話をしたいんじゃない。

「さより」
「?」
「俺と、結婚してください!」
「!」

いろいろ確認したいことや並べたい言葉はあるけれど、こういうのはシンプルに伝えるのが一番わかりやすい。手が震えそうになるのをグッと堪えて、用意していた婚約指輪のケースをさよりの前で開けた。

「ふ……あはは」
「な、何で笑うんだよ!?」
「だって、ドラマみたいなプロポーズで……ふふっ」
「わ、悪い!?」

さよりは驚くわけでも喜ぶわけでもなく、まず笑った。ドラマみたいって言ってくれるなら感動して泣いてくれてもいいのに、さよりの反応はまたしても俺の意表を突いた。

「ふふ、だから最近そわそわしてたのか」

プロポーズすると具体的に決めたのは1年前。岩ちゃんやまっつん……いろんな人に相談して準備を進めてきた。いったいいつからかはわからないけれど、俺の落ち着かない雰囲気はしっかりさよりに伝わっていたみたいだ。くそ、かっこ悪い。

「……返事は」
「はい。よろしくお願いします」
「は……そんな簡単に頷いていいの!?」
「急かしてきたくせに」

いやだって国際結婚になるんだよ?手続きのこととか仕事のこととか、頷く前に確認しとかなくていいの?

「だって……」
「手続き関係は一応調べてあるけど、よくわからないからまた教えて」
「え、あ、うん」

それって、俺がプロポーズをする前に結婚のことを見据えてくれてたってことじゃん。あーもう何でそんなこと平然と言えるかな。

「家で歯を磨きながら言われても私は喜んで頷いたよ」
「!」

更に追い討ちをかけられて俺の方が感動して泣いてしまいそうだ。全員倒すと決めた俺の人生に、世界で一番愛してる人が寄り添ってくれるなんて。もしかして俺、最強なのでは……?

「絶対幸せにするから」
「うん。私は徹さんが隣で笑ってくれてたら、それで幸せだよ」
「これ以上俺より男前なこと言わないで!!」
「ふふふ」



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