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(松川視点)

及川が古賀ちゃんに告白した。結果は玉砕。あっさり振られて勝手にイライラして八つ当たりして、「もっとよく考えて返事しろ」と逆ギレする奴なんて初めて見た。今までになく余裕のない及川は見ていて面白い。

「なんかごめんねぇ、及川が」
「……えっ!?」

及川が去った後、呆然と立ち尽くす古賀ちゃんに声をかけたら予想以上に驚かれた。俺達に見られてたことに今気づいたみたいだ。周囲を見回して他にもチラホラ野次馬の姿を確認すると、古賀ちゃんは恥ずかしそうに頬を染めた。

「まあ……本気なのは確かだからさ、信じてあげてよ」
「うん。あんな余裕ない及川初めて見た」
「え……も、もしかして先輩達、気付いて……」
「そりゃあね」
「あの及川見てたら誰でもわかるって」
「……」

古賀ちゃんの質問は今更すぎた。本当に及川の気持ちに微塵も気付いていなかったようだ。いつか及川が言っていた「恋愛脳が足りない」というのは的を射た表現だった。

「……で? どうなの実際」
「及川は少しは見込みあるの?」
「えっ……」

一度振られた時は爆笑したけど今こうやって冷静に考えた時、古賀ちゃんはどんな答えを出すんだろう。少なくとも及川のことは嫌いではないと思う。部長として、選手として尊敬してるってのも知っている。

「性格はめんどくさいけどかっこいいじゃん」
「うん、いい男だと思うよ。めんどくさいけど」
「……及川さんが素敵な人だってことは、わかってます」

外野から言わせてもらうと、正直及川と古賀ちゃんはお似合いだと思う。
今まで及川が彼女と別れた理由って、部活が忙しくて時間が取れないとか及川が他の女にも優しくて嫌だとかそんな感じだ。その点について古賀ちゃんなら理解がありそうだし、何よりめんどくさい及川の手綱を握れる女の子だと思う。

「及川さんの問題じゃなくて、私の問題というか……」
「うん?」
「私、今まで男の人と付き合ったことなくて、恋愛にも疎いから……正直誰かと付き合ってる自分が想像できなくて……」

古賀ちゃんが恋愛経験少ないっていうのは想像に容易い。いつぞやの鶴田くんの時もわかりやすく動揺してたし、何よりわかりやすい及川の好意に気付かなかったわけだし。
好きな女の子の初めての彼氏になっていろいろ教えてあげるのとか最高じゃん。及川も絶対そう思うはずだ。

「それが理由で断ったんだったら勿体ないよ、古賀ちゃん」
「!」

古賀ちゃんが言っているのは、及川がどうこうっていう問題ではなくて未知な世界を拓くのが怖いっていうことだろう。
知らずに拒絶してしまうのは勿体ない。なんだかんだ及川はいい男だし、古賀ちゃんのことを大事にしてくれるはずだ。友人として及川には幸せになってほしいって思うし、先輩として古賀ちゃんにも幸せになってほしいって思う。

「せっかくだし及川ともし付き合ったらって、じっくり考えてみたら?」
「……はい」

古賀ちゃんは素直でいい子だ。これ以上は突っ込まずあとはもうふたりに任せよう。大丈夫、古賀ちゃんがどんな答えを出しても俺達は受け入れるから。


***(夢主視点)


及川さんに告白された。
突然のことだったし最終的に口喧嘩っぽくなってしまって実感がなかったけれど、松川さんや花巻さんと話してからかわれてるわけじゃないんだと遅れて理解した。
及川さんのことは部活の先輩として好きだし尊敬している。でも付き合うとかそういう風に考えたことないから断ったのに、及川さんは納得してくれなかった。告白の返事を却下されるなんて思わなかった。
あんなことがあっても時間はいつも通り流れていく。部活中は及川さんとは気まずくて目を合わせられなかった。

「ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「……自主練付き合わされたくないんでウィンウィンです。気にしないでください」
「あはは、なら良かった」

部活終わり、みんなが自主練している時間にボール磨きをしていたら国見くんが手伝ってくれた。自主練に付き合わされたくないなんて国見くんらしい理由だ。

「……」

花巻さん曰く、及川さんが私のことが好きってことは周りにはバレバレだったらしい。国見くんも気づいていたんだろうか。

「国見くんって彼女いる?」
「……はい?」

及川さんが私のこと好きって知ってた?なんて直球には聞けなくて国見くん自身の恋愛の話をしてみたら怪訝な顔をされてしまった。

「及川さんと付き合ったんですか?」
「え!? 何で!?」
「古賀さんから恋愛の話を振ってくるなんてまずないので、何かきっかけがあったんだろうなって」
「……」

わざわざ遠回りをしたつもりだったのに、国見くんには私の真意はお見通しのようだ。

「……告白されたんですか?」
「う、うん」
「それで返事に困ってると」
「国見くんエスパーなの……?」
「多分誰でも察しますよ」

告白されて返事に困ってることまで当てられてしまった。そんなにわかりやすいだろうか。私が国見くんの立場だったら察せる自信はない。

「何に迷ってるんですか?」
「及川さんのことは好きだし尊敬してるよ。でも自分が誰かと付き合うこと自体が想像できなくて……」

及川さんのことをそういう風に考えたことがないと伝えたら、今から考えてと言われてしまった。けれどお付き合いの経験がない私にとってはそれがとても難しくて、及川さんと付き合ってる自分がどうしてもイメージできないのだ。

「じゃあ、想像するの手伝いましょうか?」
「え?」
「付き合うことになったら多分、及川さんは毎日家まで送ってくれます。部活が無い日の放課後はデートをします。手は普通に繋いでくるでしょうね」
「手を繋ぐ……」

私が改めてお願いする前に国見くんは具体的なシチュエーションを教えてくれた。及川さんと手を繋ぐ……想像してみたらなんだか照れくさかった。手を繋ぐどころか抱きしめられたことがあるのに。あの時の及川さんの言動はそういうことだったんだと、今更ながらに理解した。

「記念日は大事にする方だと思います。サプライズとかクサいこととか、結構やってきます」
「……」
「……あと手ェ出すの早いかも」

国見くんは及川さんと同じ中学だったから、及川さんの恋愛事情をある程度知っているんだろう。淡々と述べられる情報には信憑性があった。

「やっぱ及川さんって、何回か女の子と付き合ったことあるんだよね……」
「……そうですね」

及川さんは私と違ってモテるから恋愛経験は豊富なはずだ。予想していたことだけど実際に事実を知るとモヤモヤしてしまった。

「どう思いました?」
「……やだな、って思った」
「ヤキモチですね」
「!」

国見くんにニヤリと笑われてドキっとした。本当、こんなのヤキモチ以外の何でもない。及川さんが今までにどんな恋愛をしてようが、私に口を出す権利なんてないのに。

「及川さんは慣れてるかもしれないけど、私は初めてだから……及川さんが期待するようなこととか、出来ないかも……」

今まできっと素敵な人と付き合ってきただろうから、どうしても比較はされてしまうと思う。及川さんが求める彼女に私がなれるかなんてわからない。何より、及川さんに幻滅されるのが……怖い。

「そんなの喜ぶだけですよ」
「え?」
「好きな人の初めての相手なんて、燃えるだけでしょ」
「そ、そういうもん?」
「男はそういうもんです」
「……国見くんも?」
「そうですね」

男と女の考え方の違いだろうか。普段クールな国見くんがはっきりそうだと言うものだから説得力があった。

「……まあ、古賀さんを餌付けした初めての男は俺ですけどね」
「ふふ、ありがとう」

そう言って国見くんはお馴染みのチョコをくれた。恋愛経験が乏しいことについては、そこまで引け目を感じなくていいのかな。国見くんのおかげで少しだけ自信が持てた。



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