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(侑視点)

「あ、メン子ちゃんや〜」
「!」

牛島くんを見るために白鳥沢側の応援席に行ったらメン子ちゃんゼリーの女の子を見つけた。幼馴染の応援に来たって言うてたもんな。
最初話しかけられてゼリーを渡された時は意味がわからなくて、押しの強いファンもいるもんやなあと思ってたけど、どうやら俺と治を間違えていたらしい。

「メン子ちゃん隣ええ?」
「あ、はい。……ってメン子ちゃんやめてください!」
「うーん、今のノリツッコミは50点やなあ」
「え? ありがとうございます」
「いやいや褒めとらんやろ!」

メン子ちゃんは宮城から来たらしく、間延びしたイントネーションがなんだか新鮮で面白い。関西と東北のノリ文化の違いやろか、「メン子ちゃん」呼びに突っ込むのはすごく遅かった。

「ゼリーまだある?」
「あ、はいどうぞ」

治は一試合終えて腹が減ったのか、ゼリーを要求した。人のこと言えんけど初対面の女の子に図々しいと思う。古賀さんは特に疑問に思う様子もなくゼリーを渡した。


***


「幼馴染くんは牛島くんのゴリ押しやな」

古賀さんの幼馴染はおかっぱのセッターらしい。白鳥沢はまあ普通にみんなレベル高いけど、やっぱり牛島くんがバンバン決めている。多少強引でもここぞという時は必ず牛島くんや。
チームの形とかタイプの問題だろうけど、同じセッターとしてもっと気持ちの良い点の取り方はあると思う。牛島くんを囮に遣たらめっちゃ贅沢やんなあ。

「うん。今のは相手のリベロがクロス寄りに重心向けてたから、五色くんのストレートを使うのもアリだったよね」
「「……」」

俺も治も、古賀さんのガチ目線な感想に言葉を失った。何なんこの子。さっき俺らの試合には「すごかった」って小学生の感想みたいなことしか言わなかったのに。

「古賀さんもバレーすんの?」
「うん」
「へー! ポジションどこ?」
「リベロ!」

マネージャーをやっているからにはバレーの知識ぐらいはあるだろうけど、さっきの感想はプレーヤー目線じゃないと出てこない言葉や。聞いてみると古賀さんはくしゃっと笑ってリベロと答えた。

「稲荷崎のリベロの人すごかったなぁ」
「俺は?」

そんなガチな感想言ってくれるんだったら、俺らに対してどう思ったかも教えてほしい。そしてできれば褒めてほしい。

「宮くんは……アタッカー全員の最大限を引き出すセットアップだよね」
「!」
「うちのセッターと同じタイプかも」
「……へー。そいつ上手いんや」
「うん!」

自分のプレースタイルをどんぴしゃに当てられて嬉しくなった。そして、そんな古賀さんに「上手」と自慢げに語られる青葉城西のセッターがどんなもんなのか少し気になった。

「何て奴?」
「及川さん。知ってる?」
「あ、及川は知っとる!月バリ載っとった!」
「ほんと?」

及川という名前には聞き覚えがあった。実際にプレーを見たことはないけど、月バリに載っていたのを見たことがある。宮城の方ではNo.1セッターとして有名らしい。顔も男前やったな。
俺が及川のことを知ってると伝えたら古賀さんはまた嬉しそうに笑った。それはチームのことが好きだからなのか、及川のことが好きだからなのか……どっちなんやろか。

「俺と及川、どっちが上手い?」
「え……」

答えにくい質問だとわかっていながら、一人のプレーヤーとして純粋に古賀さんの意見が気になった。

「一概には言えないけど……私は、試合の全体を通してのゲームメイクは及川さんが一番だと思ってるかな」

ここで俺のが上手いと即答されないってことは俺もまだまだやっちゅーことや。古賀さんの言葉の裏に及川への信頼とか尊敬が見えて、対戦して敗けたわけでもないのに悔しいと思った。いつか戦ってみたい。
そんなことを話していたら、1セット目は圧倒的な点差で白鳥沢がとっていた。ここは白鳥沢勝利でほぼ間違いないだろう。
コートの入れ替えをしてる間に古賀さんはスマホを操作した。トークアプリの画面に「及川」の文字が目に入って、好奇心が勝って古賀さんのスマホを覗き込む。

「何て?」
「人のスマホ覗き込むなや」
「一回戦どこ見たのって」

だって気になるやんか。古賀さんも特に嫌がったり隠したりはしてないから問題なしや。
いくら偵察に来てるとはいえ、ただのマネージャーにこんな連絡するもんやろか。もしかして付き合うてたり?それか及川の片想い?

「稲荷崎対名古屋西です……と」

古賀さんが打った返信にはすぐに既読がついた。これはもう、そういうことなのでは。

「ちょお貸して」
「えっ」

そうなってくると変な好奇心が騒いできて、古賀さんのスマホを奪い取ってカメラを起動させた。古賀さんが呆気にとられているうちにインカメで俺と古賀さんのツーショットを撮って、それをそのままトーク画面に送った。

「稲荷崎が勝ちました〜、ハート、と」
「ちょっと!」

勝手に及川へメッセージを送ったことには古賀さんも焦ったようで、慌てて俺からスマホを奪い返した。けど写真と文字はしっかり送信済みや。及川はこれを見てどんな反応をすんのやろ。

「で、電話きた!」

送って1分もしないうちに電話がかかってきて、古賀さんは席を外した。

「……何してん」
「別に?」

特に意味はない。古賀さんに対してどうこう思ってるわけでもない。ただ、遥か遠くの宮城の地で血相を変えている及川を想像したら気分が良かった。



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