野兎の塔と夏の庭

 わたしは、モリビトと呼ばれる生き物だ。
 見渡す限りの広大な土地に植わる植物と、その世話をする機械の管理が、わたしたちモリビトの役目。

 とはいえ、やることはほとんどないのだけれど。

 植物の世話は機械たちがやってくれるし、彼らも彼らで、よほどの故障がなければ、わたしの手を必要とはしない。その、「よほどのこと」がないことを確認して回るのが、唯一の仕事と言ってもいい。

 今日は昨日の続きで、トウモロコシを植えている区画の見回りだ。その区画の季節設定はナツとなっているので、わたしは上着を脱いで仕度をする。
「いやだなぁ」
 ナツの区画へ行くのは、あまり好きではない。暑いのは苦手なのだ。水分補給の間隔を最短に設定し、カートに乗り込む。

 塔の外は、まだ薄暗く、ナツの仕度では少々肌寒い。これぐらいの温度の方が、わたしは好きだ。
 空気の流れに首をすくめ、わたしは目を閉じてカートに揺られていた。

「……」

 無言。
 先代のモリビトが居たころには、何かと話をしながら移動したものだが、今はわたし独りだ。空気の温度と瞼に感じる光の強度が変わるまで、わたしは黙って目を閉じていた。

「さて」

 そうして、わたしは目を開く。ナツの強い灯りの下、青く揺れる葉とその間を巡回する機械たちを、目に留める。

 些かの変調も見逃さないこと。
 それが、わたしたちモリビトの役目なのだ。


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