俺の姉貴のはなし



「あ、もしもしー?」


最近、姉貴が楽しそうだ。
彼氏と京都に旅行に行く、そう言って旅行へ出掛けたと思えば予定よりも早い日に帰ってきた。
訳を聞けば、彼氏に振られた、とか。
俺としては、姉貴の彼氏はあまりよく思っていなかった男だったから大いに結構なのだが………様子がおかしい。

「私、この人と結婚するから!」

そう言って姉貴が家へ連れてきた男。
俺以外にも父や母、使用人達もあまり良い印象を持たなかったけれど、姉貴だけは惚れ込んでいたのに。
あの男は止めておけ、という姉貴の友人の言葉でさえも振り切っていたのに。

なのに振られた今、落ち込まないどころかとても楽しそうに電話をしている姉貴に何があったのか。


「じゃあ今度ねー、ばいばーい。」


電話を終えた姉貴が俺に気がつく。

「おかえり、俊輔。」

「あ、ああ。ただいま。」

「どうしたの?」

どうしたの?は完全にこちらのセリフな訳だが、やはり落ち込んでいるような様子は微塵もない。

「…元気そうだな。」

「?うん、元気だよ?」

「…彼氏と別れたんじゃないのか?」

「うん、別れたよ。」

それが何?とも言いそうな姉貴はやはりおかしい。

「彼氏と結婚するんじゃなかったのか?」

怒られるかもしれない、そう思ったのに、そんな様子はない。
それどころか


「…まあその時はそう思ってたけどさ、いざ別れたらそんなに未練とかないっていうか。
私も見る目がなかったなーとは思う。」


そう言ってニコニコ笑っている。
そんな風に姉貴と喋っていると、もしかして、と考えが浮かんだ。


「京都で良い相手をみつけたか?」


いや…まさかな。
そう思って聞いたのに、姉貴の顔が赤くなる。

「…え?本当に…?」

「……実は…。」










あれから3日。
今日、その姉貴の良い相手、という奴が京都から東京に来るらしい。

「俊輔も知ってる人だし、とってもいい人だよ。」

そんなことを言われた。
正直、嫌な予感しかしない。
一緒に来てもいいという姉貴に付いて、俺達は東京駅にやって来た。

とにかく願うのは、あの男じゃないこと。


「あ!
おーい!こっちだよー!!」


その相手を見つけたのか、姉貴はブンブンと手を振る。


「久しぶりやなぁ、なまえちゃん。
弱…今泉くん、も。」



………最悪だ。



ぷーくくく。と笑うその男は、京都伏見の御堂筋。
何がきっかけで2人が出会ったのかは知らないが、とにかくこれだけはいいたい。


この男こそ止めておけ、と。




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