弱泉くんの身内ぃのはなし






「お姉さん、どないしはったの?」


……キモッ。
なんで僕、知らん人に話しかけたんやろか。
キョロキョロキョロキョロ辺り見渡して、迷子やろなぁ思おたらいつの間ぁに声を掛けとった。



「………御堂筋くん……?」



「………?」

さぁて?
知り合いやったかのぉ?
……確かに見覚えのあるようなないような。

僕が黙ぁってお姉さんの顔見とったせいか、慌て出す。
…キモッ。

「ち、違うんです!」

何が違いますのん。

「あの!
弟がロードやってて!私もちょっとだけやるけど!
それで、弟のレースで見て!!」

「ふぅん。」

なんや。
どうせ僕の知らぁん奴やろな。

「お姉さん1人?」

「……。」

なんやの。黙ってしもて。

「……本当は、」

ああ、やっと喋らはったわ。

「彼氏と来たんだけど…」

なんや、男連れやの。
…なんやって何。キモッ。


「怒って帰っちゃって…。」


「へぇ。」

荷物の量と訛り、あと土地勘の無さ。
観光客やろなぁ。

「どこから来はったの。」

「東京から…。」

「ほぉ。
エラい遠いとこから来たんやね。
せやったらホテルとか戻ったらええんと違う?」

どぉせ、ホテル戻れば好きな男がおってお姉さんが可愛らしゅう謝ったら仲直りセックスとかしはるんやろ。
…何考えるんやろな、僕。
キモッ。

「………。」

まただんまりや。
何なんこの女。

「………たの。」

「何て?」



「東京に……帰っちゃったの……。」




「………ハァ?」


泣きそうになるお姉さん。
何があったん。
お姉さん、何したん。

なんかこのままやと僕が泣かしたみたいやないか。
その場ぁを離れる。
仕方ないから話を聞いてやる。





「……そんなことで喧嘩別れしはったの?」


「……うん。」


思いの外しょおもない理由やった。
ゆっくりお寺さんを回りたいお姉さんと、そんなんに興味ない彼氏。
まあ普段やったらその彼氏に同意やけどもなぁ。

「……キモッ。」

思わず声にでてしもぉた。
お姉さんには聞こえてない。

普通そんなことで怒って帰らはるかいな。

「…そんで、お姉さんどないしはるの。」

何聞いてんねん、僕。
キモッ。
別にどうでもええやろ。

「ホテルは予約してあるから……。
キャンセルしてもお金かかるし…。」

ホテルの名前を聞けば、聞き覚えのある名前やった。

「これ、僕の友達ぃの家がやってるホテルですわ。
ワケ話してシングルのお部屋に変えてもろたら安なるわな。」

「え!でも!」

「ええって。」

「わ、わざわざありがとう。」

ぺこぺこ頭を下げられる。
なんでこんなことしたんやろな、僕。
ほんとキモッ。

「じゃあ電話かけますわ。
お姉さん、名前なんていいはりますの?」


「い、今泉なまえです。」


今泉…?


「お姉さん、ずっと東京すんではるの?」

「いえ…実家は千葉で…。
あ、弟、今泉俊輔って言って。
知ってますか?」





…全部、繋がったわ。


確か、あの大会の時も弱泉くんの隣ぃに居た。

あの時えらい楽しそうにしとったから、なんや女連れかと思おたけどなぁ。


弱泉くんの…姉か。



思わずニンマリ笑いそうになるのを僕は堪える。


「お姉さん、明日僕暇なんですわ。
案内しましょうか?」

「え!
案内してもらえるならありがたいですけど…そんな、悪いですよ。」

「ええんです。
弱…今泉くんのお姉さんでしょ。
代わりに、僕が東京行った時に案内してください。

弱…今泉くんにも、
あ い た い し。」

「もちろん!
ありがとう、御堂筋くん!」


僕が大切ぅなお姉さんと知り合いやと知いたら、どない顔するんやろなぁ。

キッモい顔するんやろなぁ。

あぁ。

楽しみやなぁ、弱泉くん。



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