ほら落ちた






「ダンス?」
「せやで。俺が教えたるから、踊ろうや」

でも、私未経験だし、ダンスとか全然わかんないし。
どうにか踊らなくていいように言い訳してみても、彼の中ではすでに決定事項らしい。輝いた瞳でこっちを見ないで欲しい。

「トーニョが教えるってことは、フラメンコ?」

あんな動きやってられるか。ていうか、フラメンコって一人でも踊れるし。
悶々とする私の手をとって立たせて、トーニョがテンポをとりだす。

「uno、dos、tres」

4分の3拍子。ワルツだ。
手を引かれるままついていくと、くるりと回された。どうにか回れたものの、ステップがわからなくて足がもつれる。ぐらりと視界が傾いだ。

「っ!…と、トーニョ」
「ん?どない?」

涼しい顔で片腕だけで私の腰を支えるトーニョに今までにないくらい顔が熱くなり、慌てて立たせてもらう。目が合わせられない。
私の全体重を片腕で、とか。しかも、今、男の人の顔、だった。
今まで一緒にいるのが当たり前で、意識したことなんてなかったのに。突然のことに焦りを隠せずに部屋まで走る。その姿を見て彼がにやりと口元を歪めたことに、私は最後まで気がつきもしなかった。




―ほら落ちた―

(うぶやなあ、なまえ)


2011.08.20
恋はするものではなく落ちるもの

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