緑色のフェンス





「何ぼけっとしてんだよ」
「っひゃ…!」

頬に冷たい缶を当てられて、妙な声が出た。
抗議の意味を込めて睨み付けてみるも、にやにやしている彼には通用しないらしい。
まだ肌寒いというのに、この男は何を考えているのだろう。

「卒業、おめでとう」
「…え」

不意打ちの言葉に反応が遅れる。
どう反応すべきかわからずに隣を見ると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。

「ど、うしたの」

先生。
手櫛で髪を直しながら訊ねた言葉に返事はなくて。
代わりに、正面まで移動してくる先生。
がしりと肩を掴まれて、持っていた缶が落ちる。
未開封でよかった、そう思うより先に、顎を掴まれて。
見た先の真剣な瞳に、息が止まりそうになる。

「あのさ」

これで、解禁だよな?
悪戯に笑ったかと思うと、次の瞬間には視界いっぱいの相手の顔。
唇には柔らかいものが当たっていて、熱い粘膜が間から入ってきて。
いつまでも口内を探り続けるそれに、苦しくなって胸を押す。
それでも離してくれる様子はなく、白みかける視界の横を、押さえつけられたフェンスの色が横切っていた。




─緑色のフェンス─

(し、死ぬ…っ)
(悪い、つい嬉しくて、な)
(気を、つけ、て下さ、い)

2010.03.25
minamiさまへ!
キリリクです。


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