あの子に彼が出会ってから彼があの子に惹かれていっているのはわかっていた。
 
 
でも優しい彼は俺を捨てきれないこともわかっている。
 
 
 
お話では人魚姫は泡になって消えてしまうけれど、魔女を、俺を殺すのはきっと彼だけ。
 
 
 
「ちょっといいか?」
 
ピリオドは刻一刻と近づいてきている。
 
「うん。」
 
気付いてないふりをするのはせめてもの抵抗。
 
 
「お前、あの子猫前々から世話してたって言ってたよな。俺ずっと見てたけど前々から世話してたヤツ、お前と違う。」
 
 
 
 
本当は、本当は人魚姫になりたかった。
皆から愛されて、王子様にも思われる人魚姫になりたかった。
誰からも憎まれて日陰に暮らす魔女なんて嫌だ。
 
 
「お前、なんで嘘ついた?わざわざ嘘つかなくてもよかっただろ。」
 
愛されたい。
愛して、お願い。
 
 
「なんで黙ってんだよ。」
 
 
人魚姫になりたい、けれど所詮は魔女。日の目が見れただけでもよしとしなきゃね。
 
 
 
「あーあ、ばれちゃった。もうちょっと持つと思ったんだけどなー。」
 
最後は悪役らしくしないと。
変に優しさみせられたら俺が惨めになるから。
 
 
「だってこうでもしないと俺のこと見てもくれなかったじゃん。見目も麗しくないし、なんせ男だしね。」
 
涙なんて流さない。
悪役ばりに意地悪く笑って言ってやる。
 
 
「いいじゃん。楽しかったんだから。俺にだってアンタの時間くれてもいいでしょ?これからあの子と思う存分居れんだから。」
 
愛して。
 
「なんて顔してんの?俺のことは野良猫に噛まれたくらいに思いなよ。」
 
愛して。
 
「はいはいすいませんねー。もうアンタの前には現れませんよー。」
 
俺だけを見て。
 
 
 
 
 
 
 
「誰も別れるなんて言ってないだろ。」
 
俺だけの王子様でいて。
 
 
「嘘をついたのは許せないけど、お前の事嫌いだなんて言ってもないし。」
 
日陰から見てるだけは嫌。
 
 
「そんな目すんなって。俺はお前を捨てたりしないから。」
 
海底から救いだしてよ王子様…
 
 
 
「ていうか最初からわかってたし。でもお前だから別に良かったんだけどな、お前が俺に会う度縋るような目してくるからそろそろケリつけようと思ったんだよ。……好きだよ。だからそんな寂しそうな目すんな。」
 
俺はその言葉に泣き崩れた。
 
 
俺は魔女なのに。人魚姫から奪ったのに、幸せになっていいの?
 


「俺にはお前だけだから。不安にならなくても大丈夫だ。」
 
そう言って俺を抱き締め、優しく口付けた。
 
 
「俺と一生一緒に居てください、俺のお姫様?」
 
 
魔女の俺に王子様が優しく手を差し伸べてきた。
 
 
「…はい。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
人魚姫にはなれないけれど、誰にだって王子様はいるみたいだ。




 
 
 







 
 
 
人魚姫も可哀想だけど実は魔女のがもっと可哀想なんじゃないかと思って書いた話
 
 
 
 





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