美形×腹黒?平凡
俺にはあれしかなかった、あれしかなかったんだ。
子猫を拾った、慈悲でも愛着でもなくエゴのために。
その子猫は段ボールに入れられていて寒空の下で凍えていた。
その子をいつも面倒見ている人がいたことも知っていた。
「最近気になってるヤツいんだよね。何か毎晩野良猫の世話してるヤツ。顔見たことないんだけどね。」
と俺の恋い焦がれてる人が言ったことも。
チャンスだと思った。
顔を知らないんだったら今から俺だってことにすり替えても大丈夫だって。
「あの、多分その猫だと思うんだけど…ウチにいるよ?」
そこから彼が俺の家に来るようになり俺たちは付き合い始めた。
嘘をついていることに罪悪感はなかった。
あの子より容姿も中身も劣っている俺にはこうでもしないと彼を手に入れられないのだから。
あの子はまだ彼のことを知らない、今がチャンスだったのだ。
でも最近耳にした。
「今ね、猫好き同士で仲良くなった人がいるんだけどちょっと気になってて…。前世話してた野良猫がいたんだけどいなくなっちゃって、今度その人と一緒に探すんだー。」
俺が壊した歯車が少しずつ修復されていっている気がした。
頭のいい彼のことだ、もうすぐ俺の嘘に気付くだろう。
でも俺はすぐに離れてなんてやらない。
あの子は人魚姫。
彼は王子様。
あの子から子猫を奪った俺は人魚姫から声を奪った魔女だろう。
ならば最後まで足掻いてやる。
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