うたプリ | ナノ



 はっとして顔を上げると、少々冷ややかな表情を浮かべ、仁王立ちしたトキヤがテーブルの直ぐ傍に立っていた。
 会話に夢中になり過ぎて、人が近付いてきたことすら、気付けなかったようだ。

「…音也、月宮先生が貴方に課題のことで話があるそうです。食事が終わったら、職員室に来て欲しいそうですよ」
「え、ホント?」

 音也は皿に残っていたカレーを口の中に掻き込んで、コップ一杯の水を一気に飲み干す。

「レン、ゴメン。俺、林ちゃんの所に行って来るね。トキヤ、教えてくれてありがとう!」

 そう言って席を立ち、返却口にトレイを戻すと、そそくさと食堂を出て行ってしまった。

「…全く、忙しない男ですね、音也は」

 先程まで音也が座っていた椅子に腰掛けると、トキヤはトレイで運んできたコーヒーを口へと運んだ。
 カップをソーサーに戻した後で、徐に口を開いてくる。

「貴方だったんですね、レン。音也に変な入れ知恵をしたのは」
「入れ知恵?さぁ、一体、何のことかな?」

 トキヤが言う変な入れ知恵とは、あの呪(まじな)いのことを差しているのだろう。
 レンが業と分からない振りをして見せたら、とぼけないで下さい、と、透かさず僅かに尖った言葉が返ってきた。

「誰かが吹き込まない限り、彼があのようなことをしてくる訳がないのです。あんな夜這い紛いなことを…っ」
「でも、あのお呪いがあったからこそ、上手くいったんだろ?」
「好きな相手に百回もキスをされる、此方の身にもなって下さい」
「まぁ、そうだね。俺だったら、途中で手を出してるだろうね」

 据え膳食わぬは男の恥とか言うしな、とレンは笑みを滲ませ、言葉を付け加えた。

「私だって、何度心が折れそうになったか分かりません。ですが、私にとって彼は掛け替えのない存在ですし、何より私は、音也の哀しげな表情など見たくなかったのです」

 それに、毎夜の呪いも楽しみでもあったから、自分から打ち切るような真似はしたくなかったのだ、とトキヤは言った。

「イッチー、お前って本当、イッキのことが好きなんだな」

 そして、音也も同じようにトキヤのことを一途に想っている。
 二人の、互いを想う強い気持ちが、言葉の端々に滲み出ているのが、それぞれと話をしてみて分かった。
 本当の意味での両想いとは、こういうことをいうのだろうな。ふとそんなことを思う。

「な、何ですか、藪から棒に」
「いや、別に深い意味なんてないよ。ただイッキのことを話すお前を見て、染々とそう感じたというか」

 そして、自分も彼らには負けてられないな、と改めて思った。一人の男として、自らの恋にもちゃんとけじめをつけなければ。

「…さて、と。俺もそろそろ行こうかな」

 徐に立ち上がると、レンはトレイを手にした。

「レン」

 テーブルを後にしようとしたら、不意にトキヤに声を掛けられた。

「音也のことですが…」

 トキヤが自分に何を言おうしているのか、凡そ察しがついた。

「大丈夫、これ以上イッキに余計なことは吹き込まないよ。二人はもう両想いだからな。…あ、でも、アッチの相談なら何時でも乗るから、ってイッキにも伝えといて。気持ち良い体位とか教えてやるよ」
「レ、レン…!?」
「じゃあな、イッチー。また後で」

 慌てふためく親友を一人残し、ひらひらと手を振りながら、レンはある決意を胸に、食堂を後にしたのだった。


 (20130405)


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