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だけど、トキヤ…。
お前の気持ちは理解出来る。出来るけど、俺はお前に――。
「…トキヤ。お前の気持ちは変わらないのか?もう、決めちまったことなのか?」
トキヤの想いを理解した上でも、生きていて欲しいと俺は願う。
それはただの俺のエゴに過ぎない、そう分かっていても。
「…もう、決めたことですから。彼には幸せになって欲しいのです、誰よりも。だから、私はもう、音也の傍に居てはいけない」
「……トキヤ」
やっぱり、ダメなんだな…。
結構、頑固だからな、こいつ。
なんだよ、結局、俺の想いはお前に通じないのかよ。
諦めに似た嘆息を漏らした後で、俺は渋々その申し出を承諾することを決めた。
「……ったく、分かったよ、この頑固モン。お前が散々悩んで、決めたことなら、その面倒、俺が引き受けてやる」
「……翔」
「お前を作ったのは俺だからな。最期まで面倒見てやるのも俺の義務だろ」
「ありがとうございます、翔」
「…それで、音也には?」
「これから、伝えに行きます」
「そうか」
「彼は、音也は…、どんな表情をするでしょうか?」
「…さぁな。それは、いつも傍に居たお前が1番分かってるんじゃないのか?」
そう告げれば、トキヤはしばし黙り込んだ。
別れが辛くない訳がないだろう。
端から見たって、音也がこいつを大切に想っているのが、ひしひしと伝わってくるのだから。
そんなこと、こいつだって俺に聞かなくても、重々理解しているはずだ。
「もし万が一、あいつが泣いたら…」
「翔…?」
「そん時は、思い切り抱きしめてやれよ。トキヤ、お前には、まだあいつを受け止めてやれる腕が、駆け寄れる脚があるだろ?」
「…そうですね、そうします。……翔、そろそろ彼の処に戻ります」
「おう」
「…翔、これまで色々とありがとうございました。貴方に出会えて、この身体を造って貰えて、本当に良かった。本当に感謝をしています」
「トキヤ…」
本当、こいつはこんな時まで…。
「待てよ、トキヤ。何も言わずに此処を出て行く気か?」
「え?」
「出掛ける時は、“行ってきます”って言うんじゃなかったか?」
「?」
不思議そうな表情のトキヤに、再度、同じ言葉を繰り返す。
「ほら、行ってきます、は?」
「……はい、行ってきますね、翔」
「おうっ、行ってこい」
柔らかな微笑みを一度だけ俺に向けて、トキヤはそれから振り返ることなく、ラボを出て行った。
数日後――。
俺はあいつの望み通り、その身体を、その想いを、ただの金属の欠片へと還してやった。
最愛の人を深く強く想い、その者の幸せだけをただひたすら願い続けた、アンドロイド。
トキヤ――。
お前は人間よりも人間らしい心を持った、最強で、最高のアンドロイドだったよ。
Super Lovers
(120209)
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