うたプリ | ナノ



「……音也、何が欲しいですか?」
「え?」

ある晴れた日の昼下がり。アコースティックギターで何気なく頭に浮かんだコードを掻き鳴らしていたら、トキヤが唐突に、何の脈絡も無く問い掛けてきた。
何を相手が言っているのかよく分からなくて、音也は改めて聞き返す。

「欲しいって、一体、何のこと…?」
「貴方の誕生日のことですよ。私はまだ、貴方に何も贈っていませんでしたから」
「…あぁ、なんだ、そのことか。だったら、気にしなくて良いって。この前、十分祝ってくれたじゃん、皆でさ」

あれだけで十分なのに、と音也は思ったのだが。

それは、先日の水曜日。音也の誕生日当日の放課後。
学園の教室の一室を借りて、音也の誕生日会を開き、皆で祝ってくれたのだ。
春歌と友千香が作ってくれた沢山の料理と、真斗とトキヤが用意してくれたお手製のバースデーケーキ。
それから、レンや那月、翔からは三人で選んだという、個性的で素敵なプレゼントを貰った。
そして、皆でハッピーバースデーの大合唱をしてくれて…。
ささやかな会ではあったのだけど、それがとても有り難くて、音也はとても嬉しかった。

それなのに、トキヤはまだ――。

「あれは皆からであって、私個人からではありませんでしたから。私は私で、ちゃんと貴方の誕生日を祝いたいのです」
「俺にそんな気を使わなくても…」
「別に貴方に気など使ってはいません。ただ、私の気持ちが治まらないのです」
「けどさ…」
「音也」
「…わ、分かったよ。欲しいもの、ちゃんと考えるから」

その頑なさに僅かに苦笑い浮かべながら、音也は軽く頭を掻いて、彼からの申し出を承諾した。
本当にトキヤは、バカが付くくらいに真面目だ。
一度こうと決めたら、その考えを曲げることは滅多にないし、融通もきかない。
それがトキヤの良いところでもあり、悪いところでもあるのだけど。

「…では改めて、貴方の欲しいものは何ですか?」

再度、同じような台詞を言われて、音也は暫く考え込んだ。
誰かが贈るものなら、あっという間に閃くのに、自分のこととなると、不思議なくらい何も思い浮かばない。
花束――貰って嬉しいけど、几帳面なトキヤと違い、自分は十分な世話も出来ぬまま、枯らせてしまうかもしれない。
では、アクセサリーはどうか?これも確かに嬉しいけど、自分たちはまだ学生だし、高価な物は…。それに、こういうものはもう少し関係を育んで、記念として欲しいかもしれない。
本は?トキヤと自分じゃ明らかに趣味が違い過ぎる。彼から頂いても、最後まで読み進める自信がない。
他には――。
う〜ん、と繰り返し唸りながら、漸く音也はあるひとつの答えに辿り着いた。

「…じゃあさ、トキヤを俺にくれない?」
「私…を、ですか?」

その瞳に驚きの色を滲ませ、トキヤはこちらを見返してくる。
無理もない。そのような台詞、自分からは一度も口にしたことはないのだから。
だが直ぐに、表情を変え、クスリと笑ってみせた。

「……音也、貴方も言うようになりましたね」
「へ?」
「よもや、貴方からこのように求められる日が来ようとは、思いもしませんでした」
「…え、えぇ?」

自分の言葉を、どうやらトキヤは違う意味で捉えたらしい。
じりじりと距離を縮めてくる相手の様子にただならぬ雰囲気を察した音也は、途端に焦り出す。

「ト、トキヤ、違うって。俺はそういう意味で言ったんじゃなくて…っ」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいでしょう?私と貴方の仲なのですから…」

あぁ、ダメだ。
完全に勘違いしている。

「だから、違うってば。俺はただ…」

トキヤの時間を、ホンの少しだけ自分に預けて欲しかっただけなのに。
必死に勘違いだと訴える音也の言葉は、どうやら目の前の人物には届いてないらしい。
少しずつ距離を詰めてくるトキヤ。後退る、音也。
自分のベッドまで追い込まれて、あっという間に退路を塞がれてしまう。


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