うたプリ | ナノ



「今日診て頂いた先生にも言われました。私の身体が中性化してしまった要因は、外的なものに因るのではないか、と。確かに私には、思い当たる節がありました。あの頃、私は、様々な違法薬物を投与されていましたから、恐らくそれが原因ではないかと…」
「………」

彼にとって、その時の生活は、何より辛く苦しく、深い哀しみの連続だったに違いない。
ずっと一人で悩み続け、ずっと一人で耐え抜いてきたのだ。自分に打ち明けるまで、誰にも、何も言わずに、たった独りで。
そう考えたら、音也の胸はきつく締め付けられるように痛んだ。

「トキヤ…ッ」

音也は不意にベッドから抜け出ると、トキヤの直ぐ傍へと膝をつき、両の腕で彼の四肢を自分の方へと引き寄せ、優しく包み込んだ。

「音也…?」
「ごめん、辛い過去を思い出させるようなこと言って。最初のお前の一言で、気付いてやるべきだったのに。本当、自分のバカさ加減に呆れた。自分に幻滅した」
「…いえ。貴方が気に病むことではありませんから」
「……ねぇ、トキヤ」
「……はい」
「……生みなよ」

そう呟いて、音也は僅かに身体を離し、トキヤの瞳を見据える。そして、先程と同じような台詞を、今度ははっきりと口にした。

「生もうよ、トキヤ」
「あ、貴方、何を言って…。その言葉の意味、ちゃんと理解してるのですか?よく考えもしないで、そんな簡単に…っ」
「別に簡単になんて出してない。勿論、俺なりに考えたよ。でも、幾ら考えたって、時間掛けて考えたって、俺が辿り着く答えなんて、どうせ一緒なんだよ」

そう。どんなに考えたとしても、自分が行き着く結果は同じもの。
音也には、トキヤにお腹に宿った命を生んで欲しいという答えしか出て来ないのだ。

「ですが…。もしかしたら、貴方の子ではないかもしれないのですよ?だって私は、以前に他の人とも…」
「何、バカ言ってるんだよ!」
「え…?」

驚いた表情のトキヤが、堪らずといった様子で音也を見返してくる。

「だって、お前の子だろ?だったら、俺の子でもあるよ」
「しかし…っ」
「しかし、じゃない。それ、トキヤの悪い癖だよ。そうやって、いつもいつも一人で何でも抱え込んで、勝手に自己完結しちゃってさ。何の為に俺が居るんだよ。お願いだから、もっと俺を頼ってよ。もっと俺に甘えてよ」
「……音也」
「血が繋がってるとかいないとか、俺にはそんなの、この際関係ないんだ。トキヤに小さな命が宿って、お腹を痛めて生んだ子なら、俺の子だよ。俺はその子もお前と同じように愛するよ。大切にする。だって俺は、トキヤが好きだから。大好きだから。――だからね、生もう?一緒にその子の親になろう?」

真摯な瞳でトキヤを真っ直ぐ見詰めた後、音也はにこりと微笑む。

「それともトキヤは、こんな俺じゃ力不足だと思ってる?親になれないって思ってるの?」

自嘲気味に放った音也の言葉に、トキヤは何度も首を左右に振り、否定の意思を示してくる。

「……そんなことありません」

視界に映る愛しい人の瞳が次第に潤み、僅かに顔を伏せた。すると、一滴の透明な雫が頬を伝い、はらりと静かに流れ落ちて行く。

「……ありがとう、音也」

涙混じりの声で呟くと、トキヤはそっと胸に顔を埋めてくる。

「トキヤも、お腹の子も、俺が必ず守るから。ずっと守っていくからね」

音也は彼の拭い取れぬ過去を、その思いまでも受け止めるかのように、両の腕で優しくその身を抱きしめたのだった――。


to be continued...
(20120322)




すみません、続きます。このお話の続きは、5月のラブレで紙媒体で発行出来たらと考えております。万が一計画倒れになったら――その時はこちらのサイトで…(^_^;)

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