「ほんと名前もよくやるよね」

「…」

彼は驚くほど簡単に人を殺す。目の前に転がる数人の死体は先ほどまで私と話をしていた同僚たちである。彼らが私の知り合いだと分かった上で、あえて目の前で殺すのだから本当に性質が悪い。

「もう普通の生活送ろうとするの諦めなよ。名前には俺がいるし、クロロやマチ、フィンやウボォーだって皆いるんだから他の人間いらなくない?」

「この人達も、前にシャルが殺した人達も、私にとっては必要な人だったよ」

「何それ、反抗してるつもり?」

口元だけ笑った笑顔を見せられて思わずひるみそうになるが、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。やっと手に入れた”普通”の生活に血の跡は必要ないし、気に入らない相手がいても社会で生きていく以上それは当然のことであり、即殺す対象になるわけではない。
元々戦闘能力が皆無に等しかった私は彼らの中で浮いていたのだ。人を殺せないし傷つけられない私にクロロは憐憫の眼差しを向けていたし、マチやパクは「貴女は人を殺さなくていい」と優しく諭してくれていたが、いわゆる”仕事”の話に一切関わる事のできない私はいつも虚しさを抱えていることしかできなかった。
昔馴染みだからという理由でいつまでも一緒にいることに限界がきていたのは、口に出さずとも旅団の皆が感じていたことだった。彼らが出ていけと言うか私が出て行くと言うか、どちらが先になるか、という瀬戸際でシャルナークはいつも空気を読まずに「名前はここにいたらいい」と言い続けた。
参謀の彼らしくない発言であったと思う。明らかな足手まとい、戦力外人員を囲うことを合理的でないと真っ先に切り捨てるべきは彼であるはずなのに最後の最後まで食い下がったのはシャルナークだった。

どうやっても意見を曲げない彼にしびれを切らしたクロロが団長命令として厄介な仕事を彼に渡すことで、その間に私は自ら彼らに別れを告げ、ようやく虚しさだけが残る生活から解放されることができた。
そして数か月前、晴れて普通の生活を歩む一歩を踏み出したはずだったのだ…

必死の思いで掴んだ仕事は何故か取引相手が次々と亡くなり、契約破棄。別な仕事につけば同僚達が事故に巻き込まれ全員死亡。笑えない話だ。
これが本当に偶然の出来事だったなら、彼らの元を離れたことは失敗だったと考えることもあっただろうが、いつも目の前に現れる彼の顔を見れば人為的なものであることは明らかである。

「私は、私に見合った普通の生活を普通の人達としたいだけなのに、なんで」

「あのさあ、俺が前の仕事妨害した時点でこうなることが分かってるのに新しい仕事に就く名前も普通じゃないよね。自分のやりたいことのためなら他人は死んだっていいって思ってる。俺が名前を殺さないって思ってるから。」

「それは…」

「いいんだよ。名前は普通じゃないんだからそのままで。これから先何度別な仕事を始めても何度だって邪魔をするよ。そうやって、その度に何人人が死んだって自分の意思を突きとおす名前が俺は好きだよ」

まるで恋人のように絡めとられた手は先ほどまで生きていた彼らを連想させるかのように生温く、酷い嫌悪感を私に伝えた。「名前が諦めるまで何人が死ぬのかな」他人事のように呟かれた言葉など聞かなかったふりをして人ごみに紛れるように逃げれば、背後で彼が笑う声がした。


前 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -