1 Polar zone became dawn



もう少しで正午になる頃。夜明け前の濃紺の空の下には海。
浜辺から数Km離れた沖には古い海洋観測塔が建てられていて、いつも通り無人のままデータ収集をしていた。
そこへ久し振りの来訪者がいた。
海底の地下からエレベーターに乗り、外に出られる展望台のドアを開けようとする少年がふたり。
ドアにはこんな文字が書かれている。
『警告』『太陽光を1日10分以上じかに浴びるとあなたの生命に危険が及びます!』


「冬なのにとても暖かいね」
緑髪の少年が赤く明るみ始めた水平線の先を見ながら言った。
「今日は35℃まで上がるってさ。海が干上がる前に砂浜まで泳いでみる?」
隣にいる茶灰色の髪をした少年が、転落防止の柵の隙間から波がうねる海面を指差しながら答えた。
ぬるくて濃い潮風が二人を撫でていく。
「あらゆる危険を省みない良い案だね…。やってみよう♪」
「冗談だから今の忘れて」
「あ、ケイ。もうすぐ極夜が明けるよ」
去年に引き続き、今年も海からの初日の出を見る約束をしていた。


低緯度や中緯度の生活圏を追われた人々がやってくる大昔から、この土地では長い夜の明ける日は祝日と決められていて、それは今も続いていた。
そして学業の適性毎に集められたエルダー人の子供達も休日が与えられた。
暫く見てなかった太陽のために、幼い少年達は「家」から抜け出した。


危険な太陽が水の向こう側からふてぶてしく顔を出すと、空の群青と紫と赤は消えオレンジ色の光に変わった。
まだ暗い海面がその光を反射して揺れている。頬と鼻の頭と半袖のシャツから出た腕の表面がじりりと温められる。
「……去年より赤外線強くない?この惑星、本当に住めなくなるんだな」
眩しさに目を細めてケイが言った。
「まさか太陽神に星が飲まれるなんて古代の人は考えもしなかっただろうね」
フェイズがエルダー星に伝わる太陽を守護する女神の話を持ち出した事に、ケイは少し驚いた。
「それ違うんだって。太陽神はその身体を焼いて、この星になったのが正しい神話」
「えっ、じゃあ逆なの?」
「極夜明けの今日が『太陽神の日』とかいう祝日になってから数千年も誤解されてるんだってさ」
「そうなんだ!ケイって意外と詳しいね…!」
「意外って何だよ…。フェイズは神話とか興味ないからでしょ」
「うん」
沢山の神々に守護されているなら、この星は何故こんな事態になっているのか。
太陽の女神が惑星になり、そのせいで太陽を制御できなくなったのかと思ったが、馬鹿らしくて口に出すのはやめた。
でもケイが読んでいるなら、神話は面白い作り話なのかもしれないと、フェイズは思い直した。


変化する宙のグラデーションと雲と映し出す鏡の海を眺める。
何故か二人とも海は見ていて飽きなかった。風の香りも好きな匂いだった。
しかし今のフェイズには目的があったので、意を決して口を開く。
「ケイ、あのさ」
フェイズは隣にいる少年を見て、彼がこちらを向くのを待った。
「?」
「3年後に」
「3年後?」
「総合科学研究所を受験するつもりなんだけど」
「え…、もう進路決めたの?どこにあるのそれ!!」
ケイは名前だけは知っていた。入学試験がとても難しくて有名な学校だから。
「北極圏」
「ここ南極なのに!?そんな遠くに??」
きっと難しすぎて自分には追い付くことも出来ない、あと3年でフェイズと離ればなれになる、と一瞬のうちに想像してケイは青褪めた。
「家」に帰れば祝日のごちそうも用意されるほどなのに、今日は最悪な日になりそうだった。
ケイの心配を余所にフェイズは友人に微笑みかけた。
「宇宙開発に一番近い学校なんだって」
「…分かった。今日は君の合格祈願をしておくよ」
小声になっていくケイの言葉は、フェイズには聞こえなかったらしい。
「だから、ケイも一緒に行こうよ?」



日の出から計って10分後、ふたりは展望台を後にした。
彼らが帰るとすぐに陽は沈んだ。


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