立志


「たまにね、本当にたまによ。あの時逃げてよかったのかって思う時があるの」

「結局ベルも巻き込まれただけじゃない。いいのよ逃げたって」

「そう?」

「そう」

「私もベルを逃がしたこと後悔なんてしてないし」

「……………」

「たとえ生きづらいとしても千の顔を持つ貴方なら大丈夫でしょ?無理だとか言うくせして結局上手くやって退けるんだからさ、」

空になったカップをじっと見つめ、一呼吸置く。
組織壊滅から早数年、幹部のベルモットのみ捕えられていない現状から早く脱出したい協力関係にあるそれぞれの国家組織は、使えるものは全て使ってこの目の前にいる女を捕らえようとしている。零もその中の一人だ。

「あの時見届けたいって言ったのはベルでしょ?だからその時まで、その後もずっと私は貴女の協力者だから安心して?」

「バレたら私、そして貴女もただじゃいられないわね」

「そうよ。だから私はこの事を墓まで持ってくの」

ニヒルに笑って外を見る。行き交う人の群れをかき分けて歩く身長の高い女の子、あれは裕美だ。多分私を探して外に出たんだろう。まだ携帯は早い、と言って頑なに持たせようとしない零を今だけ恨む。こういう時に不便だから持たせたいのに全く彼はわかっていない。

「あ」

「え?」

「あれバーボンじゃない?」

「そうね、」

「こっちみて手振ってるわ、名前」

「……わかってるくせにそういうのよくないんじゃない?」

「だって名前面白いんだもの、仕方ないわ。」

「そうやって私で遊ぶんだから…」

「じゃあ私は行かなくちゃね。シャトー、幸せにね」

「クリスこそ」


  
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