欣幸


アイスコーヒーの氷が涼し気な音を立てた。零士はいつ頼んだのかわからないオレンジジュースを飲んでいる。好きなものは名前と同じだ。見かけによらずわりと子供っぽいものを選ぶ。
僕は僕の宝物を抱きしめて温もりを感じる。
もし僕が間違った選択をしていなかったら、きっと、いや多分だが名前と零士の隣で笑っていられたと思う。零士の成長を傍で見届け、名前と一緒に歳をとる事ができたのだ。
自分のしょうもない選択で、一生後悔しもがき苦しみながら生涯を過ごすとなると、苦しみに押し潰されそうになるが、零士という存在がいるだけで心の支えになる。
零士を離すとそっとハンカチを手渡された。父さん泣いてるよ?と言う彼も目尻に涙が溜まっている。泣き虫な所は僕似らしい。





次会う口実に、借りたハンカチを洗って返して欲しいなあと言う零士には困ったものだ。僕は零士とは会わない方がいいのだけれど、ついまた会う約束をしてしまった。日本に来るのは大型連休のみで、家はアメリカにあると話していた。
Dadみたいな捜査官になるのが夢かな、と話す姿は年相応で僕から見ればまあ可愛らしい。

ポアロの帰り道、黒髪の双子とその父親であろう背の高い男が一人。僕は何も無かったかのようにして横を通り過ぎようとしたが、背の高い男が一言「会えたか?」と言うので足を止めて振り返らずええ、とだけ返した。

「Dad come here!」

「I'll be there soon!君は会ってはいけないと思っているだろうが、俺がどう足掻いたとしても零士の父親は君だから会ってやってほしい」

「…………」

「じゃあな、降谷君」

僕は遠くなっていく足音に暫く耳を傾け、音が消えてから歩き出した。

どうか零士がしっかり育ちますように。


  
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