静かな拍手に包まれて舞台上に立つ。大切な相棒や共に支え合ってきたヒーロー達が、祝福の眼差しを向けていた。おめでとう、おめでとう。それぞれの言葉に戸惑いつつも、渡されたワイングラスに口を付ける。幸せかねと問われた。幸せですと答えた。人生で幸福は数える程しか訪れない。ならば今、あなたの隣にいることが幸せなら、一瞬一瞬をよく噛み締めていたいのだ。飲み込んだワインも同じ味のはずなのに、同じ味とは思えないくらいに。


「そうか、では君にいいものを見せてあげよう」


こっそりと囁かれて数歩後ろに下がる。会場にいる人々の視線が集まった。とびっきりのプレゼントとは何なのだろう。と、目の前にいた少女がぱたりと倒れた。まるでドミノ倒しのように、さらにぱたり、ぱたりと皆が倒れていく。ゆっくりと腕が動いて体全体が青白く光った。眩しい光に思わず目を閉じる。そしてもう一度目を開けた時、横になっていた人達は起き上がっていた。何事もなかったかのように。笑顔で話しかけてくる。


「――は、ようやく――だね、おめでとう」
「今日は記念すべき日ね、だって――」


ノイズ混じりの声が聞こえて会話がよく聞き取れない。聞き直すもまた同じ。目の前にいるのにまるでテレビの画面越しで話すような感覚に眩暈がした。気分が優れないのかい、と問われた。大丈夫ですと答えた。けれど些細な嘘すら見抜くお方だ。肩を支えられて会場から連れ出され、用意されていた個室に向かう。そして部屋に着いてすぐにベッドに横になるように言われた。身体の怠さもあり、素直に布団に潜る。


「…熱はないようだね」
「大丈夫ですよ、ただちょっと変な感じがして」


ひんやりと冷たい掌が額から離れる。街の明かりだけで照らされた薄暗い部屋。彼はベッドの傍らに腰を下ろした。子供をあやす様にそうっと頭を撫でられる。心地良くて思わず笑みがこぼれた。


「何かあればすぐに言ってくれなければ、隠すのは君の悪い癖だ」
「…すみません、でも…迷惑を掛けたくなくて」
「迷惑なことなどないよ、君のことならね」


優しい言葉がじわじわと染み込んでくる。全てが満たされているような、寂しさも悲しみも消え去るような、気がして。落ちてくる唇に抗いたくなる衝動すらも見えなくなった。受け入れるべきだと脳が命令を下す。理由など見つからない。


「(ああ、幸せだ)」



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