結論から言ってしまうと、全ての黒幕はアルバート・マーベリックだった。育ての親にして両親殺しの犯人、そして今回の事件の首謀者。マーベリックの逮捕によりシュテルンビルトは混乱に陥った。何しろ八百長の発覚に始まり様々な問題が露見したのだ。当然HEROTVとヒーローへの激しいバッシングも絶えない。
きっかけはとある少女。彼女は単身赴任の父親と連絡が取れないことを不審に思い、たった一人でシュテルンビルトにやって来た。そして偶然にも父親を知る裁判官に出逢い、二人でマーベリックの悪事を暴いたのだ。驚くべき話だがその少女の活躍によって僕達は救われた。彼女はNEXTだった。能力は自身がNEXTに触れた場合、そのNEXTの能力をコピーしてしまうもの。マーベリックの能力は記憶の改竄。その力により操られていた僕達を、制御出来ない能力を行使して助けてくれた。そうして彼女に協力していた裁判官に真相を告げられた僕達はマーベリックの悪事を暴いた。そこまでは良かった。少女の能力により洗脳されていた者達は元に戻った、はずだった。一人だけを除いて。その人物は僕の大切な相棒で、僕の愛すべき恋人で。


「虎徹さん、風邪を引きますよ」
「…、…ありがとう」


薄着のままで窓の外を眺めている虎徹さんの肩に、そっとブランケットを掛ける。あれからずっと鏑木・T・虎徹、ヒーローワイルドタイガーは、僕の家に居候している。以前住んでいたブロンズステージのアパートは彼の家族に頼んで解約してもらった。今は事態が落ち着くまで、そして記憶が元に戻るまで。
虎徹さんは自身がヒーローだということは知っていた。ただその裏に友恵さんや楓ちゃんの存在がない。だからレジェンドへの憧れはあるものの、ヒーローにそれほど誇りを持っていないのだ。命を懸けて人を助けていた彼は、事件があっても動こうとしない。


「あのさ、アルバートは、いつ帰ってくるのかな」
「…どうなんでしょう、行方も掴めない状況なので、今は何とも…」


優先すべきはマーベリックのことのみ。植え付けられた記憶のせいとはいえ、見たくはなかった。人格の形成には記憶が関わる。だから、マーベリックに思いを寄せる彼は、僕の愛した彼とは違う。変わらない面もあるが、変わった面もあるのだ。
奴は司法局に護送されて今は刑務所にいる。あれだけの悪事を犯してルナティックに命を狙われないのは不思議な話だが、こちらとしては都合が良かった。虎徹さんの娘である楓ちゃんの能力で、改竄された記憶を元に戻せるからだ。何度試しても元には戻らなかったけれど、僕も彼女も諦めるつもりはない。マーベリックが生きている限りは。


「俺ってさ、捨てられたのか」
「………」
「ごめん、女々しいな」


泣き出しそうな顔を見せまいと、虎徹さんは無理に笑顔を作る。本当は不安で仕方がないのだろう。どうして、どうしてマーベリックのことを。様々な思いが混ざり合い、握り締めていた手が痛んだ。かつては育ての親であった。しかし今となっては憎むべき相手。自身だけではなく周囲をも巻き込んで、混乱の渦に落としただけではない。あなたはまだ鎖に縛られている。それなのに。


「…僕では駄目ですか」
「え?」
「僕はあなたを一人にさせない!…絶対とは言えないけれど、あなたの傍にいる!それじゃ駄目なんですか!?僕は虎徹さん、あなたが…っ!」


あなたが好きなんだ、愛しているんだ。人生においての相棒に、恋人になれたのに。あなたさえいれば何も怖くない。どんな困難でさえ立ち向かってみせる。永遠を約束は出来ないけれど。出来る限りの支えになりたい。傍にいたい。愛し合いたい。


「…なんか照れるな、そんなこと言ってくれるなんて思いもしなかったよ」


僅かに頬を赤くさせて彼は微笑んだ。見たことのない表情だった。切なさと嬉しさと、もう一つの気持ちが重なった、消えてしまいそうな程に儚い表情。虎徹さんは握り締めていたままの僕の両手を取り、胸の高さまで持ってきた。血が出ているぞと指を一本一本解いていく。そうしてその手を僕の方へとそっと押した。


「でもな、俺はあの人のものだから…ずっとあの人のために生きてきたから」


一瞬でも何かに期待をした自分が、奈落の底に叩き落とされた感覚が襲う。マーベリックの能力に支配されながらも、もしかしたらまた好きになってくれるのではないか。元通りに戻ってくれたのではないか、と。同時に、激しい嫌悪と憎悪が渦巻いた。八つ当たりをしてしまえば、せっかく築いた今の関係すらも崩れる。距離が開いてしまう。けれど何故と訴えたくなる。僕の恋人はあなたなのに。あなたの恋人は僕なのに。自然と涙が溢れてきた。行き場のない感情をぶつけられない現状に、心が悲鳴を上げている。


「泣かないでくれ、な?ほらほら泣き虫だなあ」


戸惑いながらも虎徹さんは傍に置いてあるタオルを渡してきた。男が泣き顔を見せるのは恥ずかしいことだと、ましてプライドの高い僕が見せてしまうことと、自分がそれを見てしまうことはいけないと。あなただから涙を見せることが出来るのに。変に気を遣って。次に発せられる言葉も決して悪意はない。だからこそ僕は辛くなる。


「"バーナビー"は」



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