H-01とは、戦闘用アンドロイドである。アルバート・マーベリックが鏑木・T・虎徹に関わりのある者達から彼の記憶を消したため、存在するワイルドタイガーの矛盾を解消すべく現れた。けれどセーフティーモードの起動によりただの人形と化した、はずだった。研究のために一体のみ再起動させたんだ。マイクを通した斎藤さんの声が部屋中に響く。キンキンと痛む耳に耐えながら、僕と虎徹さんは目の前にいる機械を眺めた。


「これどう見ても、虎徹さんじゃないですか」
「…というか、俺よりかっこよくねぇかこいつ」


にやりといつもの笑顔を浮かべて斎藤さんはさらに告げた。


「言うなれば知能が優れたタイガーだ!容姿は本人と似せてあるが、頭脳は違うぞ!」
「ちょっ、斎藤さんそれは俺が馬鹿だって言ってるんですか!?」
「お前は馬鹿だろう!馬鹿の中の馬鹿だ!」
「ひどい!」


虎徹さんと斎藤さんがぎゃあぎゃあと騒いでいる中、僕は微動だにしない人形の頬を触ってみた。人間の温もりを感じられないが、確かに姿は虎徹さんそのものだ。気持ちが悪い。ただただ、そう思った。虎徹さんであるのに虎徹さんではないことに。虎徹さんではないのに虎徹さんであることに。ぶるりと体を震わせると、琥珀の瞳が動いて目が合う。まるで心がない虎徹さんを見ているみたいで、思わず眼を逸らした。


「バーナビー・ブルックスjr.」


機械的に発せられた声は若干低音であるものの、彼と同じだった。もう一度名前を呼ばれる。ゆっくりと顔を上げると、自然な動きで伸ばされた手が頭を撫でた。ピー、と電子音が鳴る。


「体温、脈拍、ともに正常だ」
「……は?」


呆然としていると背後から斎藤さんが視覚情報でデータが得られるのだと教えてくれた。ヒーロースーツの改良版を組み込んでいるらしい。ならば、と考える。今、どうして頭を撫でる必要があったのか?人間であれば様々な理由があるだろう。けれど機械なのだ。感情が芽生えた?そんな馬鹿な。あるわけがない。


「…今、どうして」
「俺は鏑木・T・虎徹の行動パターンをプログラムされている。プログラムの命令によって顔色が優れない人間への対応を実行しただけだ」


淡々と答えるアンドロイドに一瞬でも期待した自分が愚かだったと溜め息を吐いた。違う。これは僕達を追い詰めたH-01であって、虎徹さんではないのだ。何を勘違いしているのだろう。自嘲気味に笑った姿を見て、人形は首を傾げた。


「おお?どしたのバニー?」
「何でもないですよ」


寄り掛かってきた虎徹さんににこりと微笑んで、そろそろ出て行こうと促す。けれど斎藤さんは次の瞬間、衝撃的な言葉を投げつけた。


「そうだそうだ、こいつをタイガーかバーナビーの家で預かってほしいんだ」
「っ、はあ!!?」



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