あるべき姿に戻った(らしい、)二つの世界。

統合された世界は、決して平和だなんて言えなかった。


岬の砦は今日も、全く人の手が入っていないわさわさした草原と、地上で流れる血なんて知らん顔な不抜けた色の空がだらだらと寝そべっているだけだった。

あぁ、私の網膜が投影しているこの景色を、この静けさだけを切り取るならば、平和って薄っぺらい響きがお似合いではあるかもしれない。


まぁ、つまり、見張りは暇でしょうがないってことなんだけど。



(、あ……?)


たくさんの人達が踏み固めた道の向こう、高性能というわけでもないレンズ越しに、ふと気がつけばちっちゃな粒が現れている。

ぼけた自然色がはめ込まれた丸い世界の中心、じわじわと大きくなりながらこちらに物凄い速度で接近してくるそれは、考えなくてもヒトだった。

というか、考えなくても、あの人だろう。




「ぅアリスちゃぁあああぁああんっっ!!!!」




どだだだだだだどたどたどだだだだだだ。


土煙が見えたなと思って間もなく、既にそれは私の眼下にまで到達して、弾丸のように砦の入り口へと飛び込んでいった。

あまりの速度に、なぶられた空気が見張り塔の上空までぶああと一気に駆け上がってくる。
彼の例のニオイをしっかりと混ぜ合わせて。


(ああ、変わらない光景)


アリス様とデクスさんの関係はヴァンガード内でも有名すぎて、今更感さえ漂うくらいだけど、いつ見てもいろいろ凄いなぁなんて、これまた変わらない感想が頭を掠めた。


さて、そろそろだろうか。


「アリスちゃんっ!!」


呟きそうになった瞬間、背後の強制的に開けられる扉の悲鳴が轟く。それよりも名前を叫ぶ声の方が大きかったけど。


「アリスちゃんは?アリスちゃんは帰ってきたっ!?」


私はほぼ毎日ここから見張りをやっているので、本部を訪れる人間の顔は大抵見ている。

つまり、任務から帰って早々、いるかどうかも分からない愛しのアリスちゃんを求め敷地内全てを駆け巡るよりは、まず私に尋ねた方が無駄骨を折らずに済む、というわけだ。


既にパターン化していたこのやり取りだが、次の私の一言で、彼の感情は大きく左右されるだろう。
彼のほんの小さな運命の決定権を握ったようなこの瞬間が、なんだかいつもこそばゆい。

……香水が、臭いけど。


「いいえ、お見かけしてないです。」


ズドゥン、と重苦しい音が二人切りの見張り塔上空に響く。
デクスさんが担いでいた棺のような馬鹿でかい武器が、無造作に倒れた。


「アリスちゃん……アリスちゃああん」


有名な悲劇のメロディが聞こえてきそうな程がっくりとして、まるで呪いの呪文の如くその名を呼ぶ。

と、いつもならちょっとヒクぐらいの落ち込みようを見せるデクスさん。

だがしかし、今日は違った。


彼はいきなり顔を上げたかと思えば、私の頭のどこにも浮かばなかったセリフを吐いたのだ。



「よし!じゃあ一緒にここで待とう!」



「…………………はい?」



思わず声が漏れた。

デクスさんの言いたいことが全くわからない。


聞いてみようと意識が回るより前に、デクスさんはすっくと立ち上がると、私に向かってずんずん歩いてきて、すぐ隣にまで来ると塀に手をついて外をぐるりと見渡している。

ここでアリス様を待つつもりなのだろうか?
確かにここからなら、入り口からよりもずっと遠くまで見渡せるから、見つけるのは早いだろうけど…………


私は一番気になったところについて突っ込んでみることにした。


「……えーと、あの、デクスさん」

「ん?」

「一緒に待とうって、どういう意味ですか……?」

「?、キオノちゃんと一緒にアリスちゃんを待つってことだけど?」

「!!?」


あまりの急展開に頭が眩む。
ちょっと待ってよ。ど、どうしてこうなったのよ!
っていうか、


「な、何で私の名前……!」

「何でって……いつもお世話になってるしね」


そう言った彼の爽やかな笑顔に、私の心に風が吹き抜けていく。

メロメロ香の、独特な香りがした。









物好きもいたものね!





(こんな下級兵士のこと)
(こんな3Kデクスのこと)








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こないだ久々にラタをプレイしたので。
フェニアさん愛用し過ぎでした(笑)





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