*未プレイにつきキャラ崩壊注意
ここのところ晴れていた空は、久々にしっとりとした重苦しい雲をたゆたわせて、なんとなく憂鬱な気分を誘う。
宿から出た頃と空の明るさが変わらないままだったのもあって、気がついたら結構時間が経ってしまってた。
(…とはいえ、何で今降ってくるかな…)
朝から霧雨が降ってはいたけど、まぁそんなに時間がかからない予定だったし。
ちらっと青空が見えた時を狙って出てきたんだけど……完全に油断してた。
早く帰りたいのは山々だけど、段々雨足は強まってきて。仕方無く、少しずつ服を濡らしながら、店の軒下をちまちま辿りつつ宿に向かっている。
(はぁ……さすがに気が滅入ってきた……)
「おい、キオノ」
さぁぁ、と耳に届く雨音の中に、聞き慣れたテノールが響いた。
反射的に顔を上げれば、やっぱり見慣れた顔。
「スパーダ…」
「なんだよその顔。せっかく人が探しに来てやったってのによ」
スパーダはいつもの不機嫌そうな顔をして、あぁ?とか言ってくる。
(迎えに来てくれたんだ…)
そう思ったら…なんだか、嬉しいはずなのに、―――何故かムカついてきた。
「別に来てくれなくても帰れたのに」
「はぁァ?お前、そんな服も濡らしてよくンなこと言えんな」
……あれ。何で私、こんなこと言ってるんだろ。
スパーダの言ってることも正しいし。
正直、服も冷えて寒くなってきている。
「……っていうかその傘似合わな……ふふっ」
「うっせーな。これしかなかったんだよ」
蛍光色の、かわいらしいピンクの傘を差した緑の不良は、あまりにも間抜けだった。
「えっじゃあ、傘一本しかないの?」
「有り難く思えよ。このオレが、こんなピンク傘なんて差してまで、相合い傘してやるっつってんだからな?」
でひゃひゃ、と笑うコイツは、自分を何様だと思ってるんだか。
――あぁ、イライラする。
「うっわ最悪。よりによってスパーダ?こっちから願い下げよ」
「…キオノ、テメェ……」
――――あぁ、そうか。
何でこんなイラついてるのかわかった。
うわわ。何ソレ、最悪なのは私じゃない?
「それぐらいなら、濡れて帰る方がまだマシよ」
見つけてしまった嫌な自分をスパーダごと振り切って、私は雨の中を歩き出した。
「待てよっ」
咄嗟に、スパーダが私の手首を掴んで、そのままぐっと引き寄せられる。
「いいから入れっての」
「――――っ!!」
気がついたら、スパーダのその手を、異常なほど全力で振り払っていた。
「―――ッ?…」
「………………」
目の前には、唖然とした表情のスパーダ。
その顔には、微妙に戸惑いも混じっていて。
当たり前だ。
今までずっと一緒に戦って来た仲間に、こんな些細なことで突然ここまで拒絶されたら、戸惑いもするだろう…。
「―――――っっ」
次の瞬間、私はそこから弾かれたように走り出した。
一歩地面を蹴る度に、水溜まりやら泥やらが跳ね返ってくる。気持ち悪いけど。雨のせいでもう全身ぐちょ濡れだけど。構わなかった。とにかく逃げ出したかった。
―――何で、なんで私、あんなことしちゃうんだろう。何で素直になれないんだろう。
あーもう最悪。
わかってる。本当はずっと前からわかってる。
スパーダのその態度も。
スパーダのその不器用な優しさも。
スパーダのそのいたずらっぽい笑顔も。
―――――誰にも、見て欲しくないんだってこと。
…私、知ってるよ?
街に着く度、街中の女の子があんたのこと見てるの。
でも態度が不良だから、やっぱり皆見て見ぬ振りだけど。
それでも物好きはいるもので、極たまに姿が見えないと思ったら、ヘラヘラ笑って女の子と話してたりしてさ。
本当、馬鹿みたい。
あんたも、それをこっそり見て、こんな気持ちになってる私も。
でも、私、知ってるんだ。
どんなに可愛い子でも、一緒に出かけるのは、告白されるのは、頑として受け付けないの。
そういうのを断った後に会うと、私に向けるそれが決まって優しい笑顔になるのも。
そんな不意の微笑みに、きゅっとこの胸が締め付けられるようになるのも。
本当、最悪。私が。
そんなスパーダにも、そのわざわざ断っている子にまで、嫉妬してるなんて。
スパーダを独占したいって我が侭で、逆にスパーダを傷付けてばかりで。
ナンテ カワイクナイ ワタシ。
はぁはぁと息を切らして、止まない雨の中で立ち止まった。
体が、心が冷えきって、足が動かない。
―――本当、馬鹿みたい。
「言ってやんないんだから…」
一人きりの道に突っ立って、ぽつりと呟く。
何でここまで意地張ってるのか、何でスパーダなんかにこんなこと思ってるのか、そもそも何でスパーダなんかに女の子が振り向くのか、全部わかんないけど何かもうとにかく悔しい!
(絶っっっっ対に、好きなんて言ってやるもんか!!)
ばしゃばしゃばしゃ
段々と近づいてくる足音。振り向かなくたって誰か分かるし、こんな顔見られたくないし見たくないし。
無理矢理足を動かしてふらふらと歩き出した矢先。
世界から音が消えた。
手首を掴まれることもなく。
私の前に、しなやかな、逞しい二本の腕が回されて。
ただ、彼の荒い息と、僅かに背中に伝わる彼のぬくもりで、一瞬にして感覚を支配された。
耳元の彼の唇が、声を型どるためにゆっくりと動いて――――
君がその言葉を紡ぐまで、あと3秒。
(君の言葉と)(視界の端で舞ったピンクが)(ゆっくりと地面に降りる音だけは)(やけにはっきりと聴こえた。)
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あれ…これひょっとすると…
スパーダじゃなくてもよかったんじゃ(ry
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