ショコラ





*現パロ 土風Valentine*



「そら、行ってこい」
「………………貴様」



町はなんとも愛らしい赤にピンク。
ハートにリボンにとあふれかえる。

2月14日はバレンタインデー
女の子による女の子のための女の子のイベント。
と言っても過言ではない程に、やたらめったら可愛らしいものと、女の子が町に氾濫している。

そんな中、ここもまさしく御多分に漏れず、女の子がひしめきあっているチョコレート専門店から道路を挟んだ向かい側。
男二人が立ち尽くしていた。

端から見れば、今日この日に男二人だなんて…なんて憐れみの眼差しを受けそうなものだが、等の本人達はこのイベントにしっかりと参戦しているわけで。

「早ぇとこ行け」
「……………ぐぬぅ」

にやにやとした笑みを張り付けながら、隣へとけしかけるは土方。
紅を歪め、鋭い眼光でこれでもかと睨み付けながら唸っているのは、風間。

「だいたい貴様は甘いものは好かんではないかっ!」
「今日のは別枠だ」
「都合のいい…っ」

ぎりぎりと歯噛みしながら響く重低音も、土方の笑みを深める材料にしかならない。

「うだうだ言ってねぇで、早ぇとこ俺へのチョコを買ってこい」
「…あの店でなくともよかろう?チョコならコンビニで…」
「往生際が悪ぃんじゃねぇか?男らしくねぇぞ」
「なっ!?なんだとっ!!」

業とらしく深い溜息と、呆れた様に肩を落として見せれば、風間が心外だと声を荒げた。
いま一歩が踏み出せない為、かれこれ10分程此処に立っているわけで。
しかも無駄に見目麗しい男二人なおかげで、やたらと人目も集めている。



何故こんな状況になっているのか。
と言えば、それはバレンタインデーの前日に行った買い物に旦を発する。



何処にでもあるお買い上げ何円以上で福引き、といった類いをショッピングモールでやっていたのだ。
その場のノリというか、たまたま通った通路でやっていた為、折角だからと抽選券二枚を受付に渡したのが風間の運のつきとも言えよう。

抽選のやり方は大きなサイコロを振って、出た目の数で商品が貰えるという至って単純明解なもの。
この単純さを突き崩したのは、土方の一言だった。

「数の大きい目を出した方が勝ちな」
「は?何を言っておるのだ?」
「勝負だ………………逃げんなよ?」


あの一言に過剰に反応して、受けて立ってしまった大人気ない自分を風間は呪いたかった。
勝負は僅差で土方に勝利をもたらし、満面の笑みを浮かべる土方が発した言葉。

「敗者は勝者に従うべきだよなぁ」

その言葉に含まれる意味と音色を、風間は心底聞かなかった事にしたかった。



敗者に突き付けられた翌日。その日付け。

2月14日

これが意味するものは、恋人同士という互いの関係を考えれば、嫌が応でも分からないわけがない。

「バレンタインのチョコを俺にくれるよな?千景?」

そうほざいた笑顔の土方の顔面に、コンビニの板チョコを叩きつけてやりたい。
そう思う風間の思考は既に読まれていたのか、朝っぱらから街へと引き摺りだされ、何処で聞いてきたのか女性に絶大なる人気を誇る、高級有名チョコレート専門店の前まで連れてこられたのだ。

そうして、犬に号令の如く。
女性がひしめきあう店内に行って買ってこい。と言うのだから、風間の足が止まるのも無理はない。
あの中に男一人で、しかもバレンタイン用のラッピングが施されたチョコを買ってくるだなんて、恥ずかしすぎて死ねるのではなかろうか。そんな事が頭を過っていれば、急かす声が隣から響く。

「てめぇは何時まで此処にいる気だ?」
「…………………死ね」

呪詛の言葉を吐く風間などさらりと見なかった事にする土方を、殺気を込めて再度睨み付ける。

「たいしたことじゃねぇだろうが?」
「そう思うなら貴様が行け!」
「いや、俺じゃなくてだなぁ。てめぇにはたいしたことじゃねぇだろ?」
「何故そうなるのだっ」

さも当たり前。と言い放つ土方へと更に鋭さが増した紅が向けば、にんまりと口元へ嫌な笑みを浮かべた。
その瞬間、しまったと風間は息を飲んだ。
土方の口を手で塞ぐより早く、音が溢れ落ちる。

「去年は、俺の為にてめぇ自らああいった店に買いに行ったんだろ?」
「あ、あれはっ」
「どーみても、コンビニのチョコってぇふうには見えねぇ代物だったしなぁ」
「そ…の…」
「そういやぁ、去年は確か随分と可愛い妬き…」
「煩い!黙れっ!!買ってくればよいのだろうっっ!フンっ!たかがチョコだっ!」

何を言わんとしてるのか。
思い出したくもない事実をこれ以上言われてたまるかと、風間は土方の言葉を遮り捲し立てると、向かいの店へと荒々しく歩き出した。
しかしながら、怒声荒々しくもその頬がほんのり染まっていたのを、土方が見逃すわけもなく。



数十分後
行きよりも、格段に顔を真っ赤に染めた風間が、店から逃げるように早足で帰ってくるのについ口元が緩んでしまうのは当然なわけで。

「何を笑っている」
「いや。笑ってねぇよ」

真っ赤な顔で凄まれたとこで迫力の欠片もない。
むしろ可愛いぐらいだ。と思うのだが、言葉にするのはやめておいた。

「これで文句はなかろうっ」

胸に叩きつけるように渡されたのは、今回の罰ゲームまがいで要望したバレンタイン仕様のチョコレートの箱。

「お前ぇなぁ…もうちょっとこう渡し方ってもんを…」
「…………」

雰囲気の欠片もない所作に溜息混じりで不平をのせれば、ぎろりと紅の眼光が無言と共に圧を増し、ふいっと背を向けて風間は早々に歩き出してしまった。

「おいっ!待てって!」

慌てて追い掛けるも、止まる事も振り返る素振りもない。
なんとか横まで追い付けば、不機嫌そのもので視線さえ寄越さない。

「千景っ」

何度目かの呼び掛けと、手首を掴んだことでやっと歩みを止めたそこは、既にパーキングの車の側だった。
互いに無言で車に乗り込んだところで、ぽつりと風間の口から音が落ちた。

「…………何故…俺ばかりなのだ…」

小さな小さな声は、車内という空間の助けがなければ聞き取ることは不可能だっただろう。
静かに名を呼べば、視線だけが動いて土方をやっとその紅に映した。

「ありがとな」

先程叩きつけられた箱と共に笑顔を向けて礼を言うも、また視線が逸れて車の窓外へと向いてしまった。
その姿勢を崩す気はないといわんばかりに、風間は動く気配を見せない。

「…千景」

もう一度名を呼んでみるも、窓へと向けた顔を此方へ寄越す気がないのを気にすることもなく、土方は風間の両手を取るとその手にそっと握らせた。
不意に掌に触れた感触に風間の視線が手に落ちる。
そうして見開かれた紅は、驚きを映したまま土方へと向いた。
風間の掌に置かれた、綺麗な装丁を施されたその箱と、かかるリボンに刻まれた店名の刻印はつい先程まで目にしていた物だった。
ただ、己が先程買った物と違ったのは箱の形状。

「…土…方」
「お前ぇに…な」
「………」
「あー…つかなぁ…ありゃぁ、死ぬほど恥ずかしいな」

頬が染まり、照れた苦笑を浮かべながら後頭部を掻く土方は、まいった。と小さく溢した。
再度、風間は手の内の箱を見つめる。
同じ店の、違うタイプのバレンタイン仕様のチョコレート。
それはつまり、あの店に、あの状況の中に、土方が自らの意思で風間の為にこっそりと一人で買いに行っていたという事実を現すもので。

「……俺の方が多い」
「ん?」
「こんなもので誤魔化されんぞ」

口では不服を綴るも、頬はほんのりと色付き箱をしっかりと大事そうに握る指先に力が入っている。
その様子を見て取りながら、回数の問題を言っているのだと思えば、土方の頬は自然に綻んでしまう。

「じゃあどうしたら誤魔化されてくれんだ?」

助手席に手を掛け、顔を覗き込む様に上半身を近付ければ、紅が菫を真っ直ぐ見返してくる。

「………食わせてくれたら、考えてやらんこともない」

くすりと吐息のような笑みが土方の口から溢れ、風間の手中の箱を片手で器用に開けていく。

「お安い御用で…」






舌にのるはあまい愛



くちびるごしのとろける愛を召しませ













120217


bitter sweet S.T.V.D(R15)と微妙にお話がリンクしてたりします





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