“彼女”との出会いは必然だったのか、はたまた偶然だったのかは分からない。
取り敢えず言える事は、“彼女”は俺に酷く似ていた。
目の前で目を白黒させている“彼女”は、俺を見て驚いているようだった。
「お、お前は…?」
「…取り敢えず此処から移動しないか?」
女性をあまり、外で立たせたくないんだ。
そう言って、俺は“彼女”に手を差し出す。
“彼女”は俺の手と顔を交互に見て、恐る恐る俺の手を握った。
そうしてやってきたのは小さなカフェ。
客は居なくて俺と“彼女”だけのようだった。
適当に食べる物を頼んで(“彼女”はアップルパイを頼んでいた、大量に)、目の前の“彼女”をもう一度見る。
「さて、お互いの名前を教え合おうか。」
「…俺は、名前だ。」
「ナマエだ。」
「…ナマエ、か。ナマエは海軍なんだな。」
「そう言う名前は海賊か。」
その顔は海軍なのに敵意が無いのが不思議だって顔だな。
まぁ、そうなるだろう。
普通海賊と海軍は敵同士なんだから。
「俺は別に、海賊だから捕まえるって訳じゃない。弟も海賊だし。」
「弟が居るのか。俺にも手の掛かる弟が居るんだ。後甘えん坊。」
「俺の弟も甘えん坊で、大分手が掛かる弟なんだよ。」
「…なんか俺達、似たり寄ったりだな。」
「はは、確かに。」
姿とか、雰囲気とか、家族の事とか。
何処か似ている俺達。
出会ったのは、必然だったのかもしれない。
「それにしても大量にアップルパイを頼んでたな。」
「あぁ、好きだからな。と言うナマエも、大量に飯頼んでただろ。」
「そうか?あれぐらい普通だと思うが…」
「俺の弟みたいな奴だな、ナマエは。」
「名前こそ俺の弟みたいだ。」
名前の弟も、どうやら大食らいらしい。
一目会ってみたいな、名前の弟に。
そこまで考えた所で、俺達の頼んだものが来た。
「うまー」
「悪くないな。」
「見た目小食に見えるのにな、ナマエ。」
「俺は名前の方が少食に見える。」
「そうか?」
「そうだ。」
互いに互いの頼んだものを食べながら、会話を続ける。
此処の料理は中々に美味い。
また来れるなら、此処に寄りたいな。
「そう言えば、ナマエは何で一人なんだ?海軍なら船で移動してるだろ?」
「いや、俺は世界中をブラブラしてる。色々変身しながら…」
「変身?」
「あぁ。俺、全ての悪魔の実の能力が使えるんだ。」
「…嘘だろ、それ。」
「いや、本当だって。」
確かに知らない奴に言ったらそう言われるけどさ。
でも、本当の事だからどうしようもないだろ。
となると、何かになって見せた方がいいか。
烏じゃ分かり辛いだろうし、鷹って訳にも行かない。
…不死鳥とか、どうだろうか。
「えぇっと……その刀で斬ってくれないか、俺の腕。」
「は!?何言ってるんだお前は!」
「いいから、大丈夫だから斬ってくれ。」
「ナマエはMか!」
「いや、違うんだが…」
気持ちは分かるが、俺は断じてMじゃない。
しかしこのままでは埒が明かないな。
仕方ない、ドンキホーテの能力を使うか。
そう思い、指を軽く動かす。
「!?か、体が勝手に…!」
「取り敢えず斬ってくれたら良かったんだけど…まぁ、仕方ないか。」
「や、止めろ…!」
「大丈夫、俺に傷は付かないから。」
刀を抜き、振り上げる。
そして、それをそのまま俺の腕に向かって振り下ろさせた。
その、次の瞬間。
ボボッ!
「…え?」
「ほら、大丈夫だっただろ?」
「その、炎は…」
「不死鳥マルコの能力。因みについさっきのはドンキホーテの能力だ。」
名前はどうやら、マルコの事を知ってるみたいだな。
炎を見た反応が、それっぽかった。
…白ひげ海賊団だったりするんだろうか。
「ナマエはマルコの事を知ってるのか?」
「ん?まぁ、弟が世話になってるしな。」
「俺、白ひげ海賊団の副船長なんだが…」
「…えっ?」
今度は、俺が困惑する番だった。
白ひげ海賊団の、副船長?
俺の知る白ひげ海賊団に、副船長は居なかった筈なんだが…
これは一体、どういう事だ?
「ナマエみたいな兄を持つ奴が居るなんて、俺は聞いてないんだがな…」
「俺も名前が白ひげ海賊団に居るっていう事は聞いてないんだが。」
「え?どういう事だ?」
「分からない。取り敢えず確認の為に、お互いの弟の名前を言ってみようか。」
「…分かった。」
お互いに白ひげ海賊団の事を知っていて、弟がそこに居るなら多分これで分かる筈だ。
もし違えばお互いの記憶違い。
もし合っていたら…その時はその時だ。
「「せーの!俺の弟は、エースだ!」」
「「……。」」
俺と名前が言った、お互いの弟の名前。
寸分違わずに、それは綺麗にハモった。
…名前の弟が、エース?
よく似た名前の、別人なんだろうか。
「…メラメラの実の能力者か?」
「…あぁ。そばかすで、くせっ毛か?」
「…そうだな。大食らいで甘えん坊?」
「…鬱陶しいぐらいにな。二番隊隊長か?」
「…あぁ、自慢げに言ってた事は覚えてる。」
「「……。」」
どうしよう。
どうやら、俺達は何やら不思議な現象に巻き込まれてしまったようだ。
あれか、別の世界って奴か。
「俺と同じなのに、海軍なのか…」
「まぁ、この方が色々都合が良いからな。エース達が捕まってもすぐに助けられる。」
「それじゃ裏切りになるんじゃないのか?」
「別に。大切な家族に手を出したらそんなの関係ない。」
「…それは、分かる。俺がナマエだったら、同じ事するだろうな。」
「だろ?」
俺も名前も、弟が、“家族”が大事なんだから。
それは、同じだけど立場が違う俺達の共通点。
でも、名前の方が“家族”が多いかもな。
だって、白ひげ海賊団の副船長なんだから。
「白ひげ海賊団に入らなかったのか?」
「俺は元々海軍に入るつもりで居たからな。今更海賊になる事は出来ない。」
「…そうなのか。」
「まぁ、そう言う所では名前が羨ましくもある。」
「え?」
俺の言葉に、名前が呆けた声を出す。
海軍での生活も悪くはないし、世界を旅するのも悪くない。
だけど、たった一つだけ足りないものがある。
「“家族”が居るのが、羨ましい。」
「!」
「海軍に、“家族”は居ないから。」
“家族”を護る為に入った海軍。
上下関係はあれど、“家族”は居ない。
だからこそ、俺は名前が羨ましい。
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