*もしも『頼れる〜!!』のヒロインが拾われたのが4、5歳だったら
「しね。パイナップル」
「上等だ。表出ろ糞餓鬼」
「落ち着けってお前ら」
止めるなサッチ。この糞餓鬼はそろそろ本気で殴らないと気がすまねぇよい。
俺の目の前にいるのはムカつくぐらい可愛い気のないさっきからめちゃくちゃ睨んでくるこのナマエとかいう餓鬼。確か今年で5歳と言ったか。まだまだガキだがかなり…か・な・り!(ここ重要)ムカつく。
ほら見ろ、サッチの後ろで馬鹿にしたような顔で俺を見てやがる。
―― ム カ つ く !!!!
「バナナ」
「バナナじゃねぇよい糞餓鬼」
「おれはクソガキじゃねぇ!」
「てめェなんざ糞餓鬼で十分だよい!」
「んだとおっさん!!」
「落ち着けって」
「「リーゼントは黙ってろ(い)!!」」
「……………はい…」
俺らの言葉に涙目で去っていったサッチ。悪いが今は構ってやる気はないから放っておく。
――――ダンッッッ!!
「〜〜っっ!!!?」
…と、サッチが去っていった方向を眺めていたらいきなり足に強い痛みが走った。
何事かと足元を見れば、俺の足の爪先を踏んでるしてやったり顔のナマエ。…っコイツ!!
「はんっ!ざまぁみろクソパイナップル!」
「…殺す…っ…!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
「待ちやがれ糞餓鬼!」
船内に走っていった小さな姿を追いかけて俺も船内に入る。あの野朗…絶対ェ泣かせる!
≡≡≡≡≡≡
「(…どこに行きやがったあの糞餓鬼!)」
ドカドカと荒く足音を立てながら船内を歩くマルコ。その表情はこれでもかというくらい顰められている。それを見たすれ違うクルー達が「ひぃっ!」と小さく悲鳴をあげて道を空ける程だ。
が、その雰囲気をものともせずに歩く人物が一人。
「何かさっきから騒がしい思ったらマルコじゃねぇか」
「…イゾウか」
「どうした?そんなに眉間に皺寄せて」
「あの糞餓鬼知らないかい?」
「…ははーん。またナマエと喧嘩したのか」
イゾウは何かを察したように顎に手を当ててニヤリと笑った。マルコが「糞餓鬼」と呼ぶのはナマエしかいない。それにマルコの顰められた顔を見れば一目瞭然だ。
「喧嘩するほど仲が良いとは言うがほどほどにしとけよ」
「誰が誰と仲が良いって?」
「そりゃあお前とナマエがだよ」
「はぁ!?」
「あれ程毎日喧嘩するくらいだしな」
「ジョズ!?」
マルコとイゾウの後ろから現れたのはジョズ。どうやらイゾウと一緒にいたらしい。だが、二人の言葉に冗談じゃないとますます顔を顰めるマルコ。
「あんな糞餓鬼と仲が良いわけねぇだろい!」
「くくっ、照れるなって」
「照れてねぇ!」
「時には正直になるのも悪くないぞ」
「俺はいつも正直だい!」
マルコは青筋を浮かべながら怒鳴る。そしてこの二人と話すのは時間の無駄だと、足早にその場を離れた。
「…なーんで認めないかねぇ、マルコもナマエも」
「ナマエにも言ったのか?」
「おう。さっきそこですれ違ったからな」
「…マルコに言ってやらなくて良かったのか?」
「んー?良いんじゃねぇの?」
「(…絶対楽しんでるな……)」
≡≡≡≡≡≡
度々すれ違うクルーに悲鳴を上げられ、隊長格の奴らには「またか」と笑われる。何なんだどいつもこいつも。誰があんな糞餓鬼と仲が良いんだってんだ。
「……すぴー、」
「(……コイツ…)」
そして、やっと見つけたと思ったらナマエは寝ていた。船内の奥の奥の使われているかも分からないような、埃が積もっている暗くて狭い部屋で。…コイツ、よくこんな部屋で寝れるな……。
「おいこら起きろ糞餓鬼」
「……んむ、?」
「何寝てやがんだよい」
「…うるさいなパイナップル」
「うっせぇ糞餓鬼。何でこんな部屋で寝て…」
「…せまいへや、おちつく」
「あ?」
「ひろいとさみしい」
「………」
「どうせだれもいないなら、せまいへやのほうがいい」
「…お前、」
「……あかるいのも、にがてだ。くらいほうがいい」
いつもの威勢はどうしたってくらい小さい声で呟き、もぞもぞと猫のように体を丸くしてまた寝ようとするナマエ。…って待てコラ。
「こんな所で寝んな」
「…んみゅっ」
このまま寝ようとするナマエの首根っこを掴めば変な声を出した。とりあえず今にも寝そうなコイツを抱き上げてから部屋を出る。
「寝んなら甲板にしろい。あんな埃まみれの部屋で寝るな」
「は…なせ、」
「黙ってろ」
「んむぅ……」
不貞腐れたようにぷくりと頬を膨らませたナマエの背中をあやすようにポンポンと一定のリズムで叩いてやる。そうすればまた眠くなってきたのか、ナマエはとろとろ瞼を閉じていく。
「ほら、甲板に着くまで寝てろ」
「む、……」
しばらく背中を叩いてたら俺の耳元から静かな寝息が聞こえだした。そっと顔を見れば、すぴすぴと寝息を立ててあどけない表情で眠るナマエ。
「……こうしてりゃあただの餓鬼なのにねい…」
一体コイツは何者なのか。まだたった5歳ぽっちの小さな子供が、何をそんなに重いもんを背負ってんだ。
分かってる。コイツが俺に喧嘩を吹っ掛けてくるのはただ構って欲しいと訴えてるって事ぐらい。一人でいる時はどこか寂しそうに甲板の隅っこで丸まって膝に顔を埋めてるってのも知ってる。
いつも強がってばかりで誰ともまともに話さないが、いつか。いつか教えて欲しい。何も出来ないかもしれないが話くらいは聞いてやれる。
知ってるか?悩みってのは一人で抱え込むより誰かに打ち明けた方が気が楽になるもんなんだよい。
「…強がってんじゃねぇよい、糞餓鬼」
寝てるお前には聞こえないだろうけど。
「いつだって頼りやがれ。…家族だろうが」
たまには甲板で昼寝をするのも悪くないと思った。
喧嘩するほど何とやら?
(ナマエとマルコが甲板で一緒に寝てる!?)
(静かにしろ。起きるだろうが馬鹿サッチ)
(毛布を持ってきたんだが…)
(お、ジョズ)
(さっき寝たばっかだ。今のうちに毛布を掛けてやんな)
(分かった)
(え、ちょコレどういう状況!?)
(すぴー……)
(……zzz)
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