リクエスト作品 | ナノ






あの日(『存在意義』参照)から暫く…ナマエも入浴剤作りにハマり、ナース達に教わりつつ色々な入浴剤を作っては入浴を楽しむようになった。そして風呂上がりのナマエの香りを楽しみにするクルーが続出するようにもなった。変態である。

「昨日の姉さん蜂蜜の香りしたよなぁ…思わず食っちまいたくなるくらい」
「…セツ……」
「おいゼキ!その生ごみに集るゴキブリを見るような目を止めろ!お前だって風呂上がりの姉さんの香りを楽しみにしてるだろ!」
「…………………セツと、一緒にしないで…」
「おい!間!間があったぞ今!」
「…」
「ちょ、無言で武器構えんな!」
「煩いぞお前等。セツ、予算書の整理は終わったのか?」
「うっ…あともう少しです…」
「なら早くやれ。あと少しならすぐ終わるだろ?ゼキは休憩中か?だったらわざわざセツにちょっかい出すな。面倒だから」
「……、はい…」
「面倒だから!?面倒だからって何スか!?」
「こういうことだよ」
「問答無用の右ストレート!」

痛い!姉さんの愛が痛い!!まだ騒ぐなら左ストレートもくれてやる。行ってきまーす!ナマエが左腕を構えた途端素早く逃げたセツ。流石に愛とはいえ二発は命に関わるらしい。一瞬で消えたセツの後ろ姿に溜め息を溢す二人。何だろう、この無駄な疲労感…。二人の心の声がハモった瞬間である。

「くぁ……」
「…ん?ハルタ、寝不足か?」

セツが消えた廊下で欠伸を溢しながら現れたのは十二番隊隊長。いつもは私服もかなりお洒落なものを着ているのに、今日は珍しくただのTシャツとジーパン。(ちなみにTシャツには「オヤジラヴ」と書かれていた。)

「あ、ナマエ…最近ちょっと寝不足でさぁ……っふぁあ…」
「この前やった『百物語』が原因か?やる前に言っただろ、眠れなくなるぞって」
「うっ!い、言わないでよ!俺だって反省してるんだから!」
「『百物語』…?」
「ん、この前隊長達で集まってやったんだよ」

『百物語』といえば、夜に数人が集まって百本のろうそくに火をつけ、怖い話を一話語るごとにろうそくの火を一本ずつ消していき、最後の百本目が消えたときに妖怪や幽霊が現れる…と言われる遊びだ。勿論言いだしっぺはイゾウである。当人は始終笑顔で怪談を語っていた。余談だが、一番怖い話をしたのは意外にもジョズ。あの無感情に語る様が一番恐怖を煽ったらしい。怖いのが苦手なのに参加したハルタは一つ話すたびに悲鳴を上げては泣いてを繰り返し、かなり騒がしかったため近くの部屋で寝ていたクルーは翌日立派な隈を拵(こしら)えていた。

「あれのせいで俺ここ三日はベッドに座る事すら出来ないんだから…」
「ラクヨウが話してたな。ベッドの下には無数の目が付いた妖怪が」
「止めてえええええ!」
「次はイゾウが話したワノ国の人形が捨てられた怨念から髪が伸びて」
「きゃあああああああ!」
「最後はジョズが自分のダイヤモンドが固いのは実はそれで殺した人間の魂が」
「ひいいいいいいいいいい!」
「…ナマエ隊長…」

廊下には暫くハルタの悲鳴が響きわたったとさ。




≡≡≡≡≡≡




「ハルタ、湯加減どうだー?」
「ちょっと温かったかも」
「じゃあ湯足してくれ。後で俺も入るから」
「はーい…………え!?」
「は?」

じゃばっ!!と水が跳ねた音がする。それはギリギリ零れず、縁を伝ってまた大きな水溜まりの中へ落ちる。所変わってここはナマエの部屋。…に、備え付けられている風呂の中。散々からかったお詫びにと、ナマエがリラックス効果のある入浴剤を使用し入浴を勧めたのだ。

湯船には乳白色のお湯が溜まっており、ラベンダーミルクの優しい香りが風呂場を満たしていた。風呂場の外のわりと近くにいるのか、ナマエの声はかなり聞き取りやすい。…いや、問題なのはそこじゃなくて。

「え、入るの?」
「後でな」
「…お、俺が浸かったお湯だよ?」
「別に気にしないが?」
「………」

そうだ、ナマエはそういう奴だった…!湯船の中で脱力する。確かに大浴場とか普通に使ってたもんな、ナマエ…!誰が浸かったお湯だろうが、その後に誰が浸かろうが気にしないもんな…!ナマエには見えてないはずなのに「何妙に緊張してんだ」と笑われた。見聞色の覇気ずるいぞ。

「そろそろ上がっとけよ。逆上せるぞ」
「…はぁい」

湯船に顔の半分まで沈めてぶくりと空気を吐き出す。…何だかなぁ。意識されてないって悲しい。一応ちゃんと割れている腹筋を撫でて唇を尖らせる。

「…イゾウに色気の出し方教わろうかなぁ」
「その前に怖い話で怯えないようにすることから始めるんだな」
「聞かないでよ!」

ばしゃああっ!!今度こそ水は湯船から零れ落ちた。外からはくつくつ笑う声が聞えて、丁度良く温まった身体が熱くなってきた。








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