晴れ渡る晴天の下。今日もモビーディック号はグランドラインを進んでいた。
―ドカァアアアン!
……激しい破壊音と共に。
「……またかよい」
「毎日毎日よく飽きないっスねー」
「……うるさい…」
「今日も派手にぶっ飛んだなー」
溜め息を吐いたマルコとセツ。飛んでいった俺を見てから眉間に皺を寄せたのはゼキ。サッチはといえば楽しそうにけらけらと笑っていた。
勢いよく飛んでいった俺は甲板の手摺りに当たってからやっとのことで止まった。
「…っくそ!」
この船に乗せられてから数日。
毎日白ひげの隙を窺って攻撃を仕掛けてみるが、さすが四皇と言うべきなのか、今のように軽くあしらわれてしまう。
イライラしながら舌打ちをして、それでも消えない苛立ちに右手で作った拳で甲板を殴った。
「おーいエース。あんまりうちの船を苛めんなよー」
「うっせえリーゼント!」
「リーゼント馬鹿にすんなよそばかす」
「そばかすの何が悪い!」
「開き直んな」
「どっちもどっちだろい」
「「(バナナのくせに)」」
「…何か言ったかい?」
「「何でもないですっ!!」」
黒いマルコにニッコリと微笑まれ、俺とサッチは同時に土下座する。
ズゴゴゴゴ…!という音まで聞こえそうな程にドス黒いオーラを撒き散らすマルコ。めっちゃ怖い。俺とサッチが震えながら土下座をしていると、ゼキがマルコの袖を軽く引っ張った。
「あ、…マルコ隊長……」
「ん?ゼキ、どうし……」
―ドォン!!
「「「!!」」」
「ちっ、敵襲か…」
「おいこらゼキ!気付いてたならもっと早く言えよ!」
「…セツ…、うるさくなるから…やだ」
「んだとぉおお!?」
「まーまー、落ち着けってお前ら」
突然響いた大砲の音。振り返った先に見えたのは見たことも無い海賊旗。どうやら命知らずな海賊が白ひげ海賊団に喧嘩を売ってきたらしい。
ギャーギャー騒ぐセツを無視して、マルコは敵船に向かうつもりなのか、両腕を不死鳥の翼に変化させて手摺りに足をかけた。
「俺が行ってくるよい」
「あぁ、俺も準備をしたらすぐに…」
――ザッパアアアアアン!!
「「!?」」
行く、と続くはずだったサッチの言葉は大きな水の音に掻き消された。
何事かと敵船の方を見ると、まるで刃物のように鋭く変化した海水が敵船を真っ二つに引き裂いていた。何が起こったのか分からなかった敵のクルー達は混乱している。それはもちろん俺も例外じゃなくて、焦って周りを見回した。
「何だ!?新しい敵か!?」
「…あぁ、アイツか」
「やっと帰ってきたな!」
「……帰ってきた?」
嬉しそうに顔を綻ばせるサッチとマルコに俺は首を傾げる。帰ってきたって、誰がだ?
「そういやエースには言ってなかったな」
「何を?」
「俺らの副船長の事だよい」
「白ひげ海賊団に副船長なんかいたのか?」
「おう!俺の大ッ切な姉さんだ!!」
「…セツのじゃない……」
「うるせーよゼキ!」
「姉さん…ってことは女か?」
「そうだぜ…っと、終わったみたいだな」
サッチの言葉に敵船に顔を向ければそこには先程の海賊船の姿はなく、木片だけが海にぷかぷかと浮いていた。(早っ!)
恐らく波に流されたのだろう。敵のクルー達は一人も見当たらなかった。
「…で、副船長ってのはどこだ?」
キョロキョロと見渡してみるが、人っ子一人いない。というか敵のクルー達すら見当たらないのに見つかるわけがない。
「まぁもう少し待てよい」
「待てって……」
「まずはアイツにこの船の居場所を教えてやんなきゃいけねーんだよ」
「は?」
居場所って…、そんなの見たら分かるだろ?つーかそもそも副船長自体見当たらないし。
俺が首を傾げると、マルコとサッチはニヤリと口端を上げるだけで何も教えてくれない。
「どういう事だよ?」
「いいから黙ってろい」
「え、」
「ねーえさーん!!!!」
「うわっ!?」
いきなり俺の隣でセツが叫んだ。驚いてセツを見るが、セツはさっきよりも大きく身を乗り出してもう一度「ねーえさーん!!!!」と叫ぶ。いきなり何なんだ。
「…何してんだ?」
「さっきも言ったろ。ここの居場所を教えてるんだよい」
「よーく見とけよエース!我らが副船長様のお帰りだ!」
「は………………っ!?」
―――ザッパァアアアン!!
「うお!?」
突然、海面に大きな水柱が立った。何事かと海に目を向けると同時に大量の海水が上から降ってきた。
「ぅええええ!?」
…バシャァアアア!!
「――…ぶっ!!」
頭から海水を被った俺は力が抜けてへたり込む。…一体何なんだよこれ……。
どういう事なのか聞こうとサッチとマルコの振り向く。
と同時に聞こえたのは
「―――…久しぶりだな、エース」
この世界でたった一人の、血の繋がった姉の声。
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