「…え、……?」
「ここでお前に会えるとはな」
女にしては低めのテノール。
(その音が何よりも好きで)
「ふふ、何だその顔」
「……、…、……」
フードの下から覗く、薄く弧を描いた口元。
(その顔も、どんな顔も大好き)
甲板のど真ん中に立っているのは、真っ黒なコートに身を包んだ少々小柄な人物。
(でも昔の俺よりは背が高かった)
その姿を見ただけでは男なのか女なのか分からない。
(男からも女からもモテてて、その度に俺が妬いて)
その人物はゆっくりとこちらに近付いてきた。
「ふふ…俺が誰だか分からないか?」
「……ま、さか…」
俺が喉から搾り出した僅かな声に微笑んだ目の前の人物。
そしてニヤリと不敵に笑った。
(……あぁ、この笑い方も好きだな)
「―……あぁ、挨拶がまだだったな」
その人物は、バサリと音を立ててフードを脱いだ。
フードで隠れてた黒髪が風になびく。
(……髪、伸びたな…)
「白ひげ海賊団副船長、及び特攻隊隊長」
久しぶりに聞いた声は少しだけ大人びていて。
(でも、どこか懐かしくて)
「ナマエ」
赤いルビー色の目は優しい色をしていて。
(それは、どの宝石よりも綺麗な色で)
「以後よろしく」
「……、…」
数年ぶりに会った姉、ナマエ。
この数年の間、一体どうやってた過ごしてたのか。
何で副船長をやっているのか。
俺やルフィの事は忘れてなかったか。
「…、……ぁ、」
聞きたいことは山ほどありすぎて、それは言葉にならずに空気となって口から漏れるだけ。
そんな俺を見て、ナマエは楽しそうに笑う。
「ふふ、間抜けな面だな」
「…ナマエ、」
「おう」
「本当に、ナマエか…?……夢…じゃないよな?」
「夢だと思うんなら触ってみるか?」
ほら、と言ってこちらに手を伸ばしたナマエ。
恐る恐るその手に触れる。………温かい。
「っ、ナマエ……!!」
「っと、」
ナマエにぎゅっと抱きついたらしっかりと受け止めてくれて。
昔はナマエの方が身長が高かったけど、俺の身長が伸びたからかこの身長差に少し違和感を感じる。
それでも。この体温、この感触、この匂い。全てが懐かしい。
「…っ…ナマエ………!!」
俺は、海賊になったナマエを追いかけるために海に出た。
海賊になるため、フーシャ村からいなくなってしまったナマエ。ナマエがいない日常は思っていた以上に寂しくて、俺とルフィは毎日のように泣いた。
ルフィと一緒にナマエの初めての手配書を見た時は二人で絶叫したのも記憶に新しい。
始めの金額が億越え。しかも5億ベリー。ルーキーにしては考えられない金額だった。
しかも最近また金額が上がって10億になっていたのも確認済み。一体何をしたのか、『DEAD OR ALIVE』が、どの手配書にも書かれたことがない『ALIVE ONLY』へと変わっていた。
懸賞金が上がるのは弟としても嬉しい。けどそれ以上に不安になったんだ。
もしかしたら、賞金稼ぎの奴らがナマエを狙ってるかもしれない。
もしかしたら、大勢の海軍に攻め入れられているかもしれない。
考えれば考えるほど不安は募るばかりで。
「……無事で、良かった…!!」
「…ばーか。俺を誰だと思ってんだ」
目頭が熱くなって視界が歪む。
ナマエを抱き締める腕に力を込めれば、優しく背中を擦ってくれる。その体温が温かくて、懐かしくて。本当にナマエがここにいるんだということを実感する。
「……会いたかった…、姉ちゃん…っ!」
「…大きくなったな、エース」
ナマエを抱き締める腕にぎゅう、と更に力が入った。
大好きな、あなたに
(やっと、会えた)
(もしもーし…感動の再会のところで悪いんだけど…)
(俺らにも構って欲しいなーなんて……)
(……隊長…)
(……よい)
(ナマエ…〜〜っ!!)
(よしよし)
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