俺の名前は東方仗助。見た目に関しちゃあ、もう完全なヤンキーだと思ってくれていいっスよ。学ランにリーゼントは俺の誇りみたいなもんっスから!

 まぁ、俺が言いたいのはそのことじゃあねェ。最近、俺はちょいと気になっている人間がいる。その人は別にスタンド使いとか、俺にケチをつけてくるとか、そういう理由で気になってるわけじゃあない。ただ、気付いたのはつい最近なんだが、ふとした時に物言いたげにこっちを見ている気がするのだ。
 その人の名前は、山埜真白。俺のクラスメイトだが、一度として山埜から誰かに話しかけたところを見たことはない。いつも俯いてて、ぷるぷる震えていて、授業で当てられた時なんか顔を真っ赤にして小さな声で問題の答えを紡ぐ。山埜の姿はまるで、ペットショップにいるハムスターみたいな小動物を連想させる。
 クラスでは山埜を癒し系女子だとか、小動物だとか言ってる。その割に、自分達からあんまり山埜に話しかけるようなことはしない。(話しかけたら怯えられるからとか何とか。そりゃあ、話しかけて怯えられたら虚しいもんな。)確かに、小さなその頭がぴょこぴょこ動く姿を見ているとかなり和む。顔も別に悪くねェ。むしろ可愛い部類に入ると思う。(確証がないのは山埜がいつも俯いているからだ。)

 おっと、話がずれた。そんな山埜なんだが、さっき言ったように俺のことを時々物言いたげに見ている…気がする。目が合ったことは無い。話しかけたことも無い。俺が自意識過剰なだけかもしれないっスけど、でも山埜は俺を見て、何か言いたそうにしているような気がしてならない。
 億泰にそのことを話せば「山埜って誰だ?」と返され、康一に話せば「気のせいなんじゃない?」と言われ、丁度その時いた露伴に言えば「君ってそんなに自意識過剰な人間だったのかい?」と笑われる始末。(露伴になんて聞かなきゃ良かった!)


「きゃー!仗助くぅーん!!」
「今日も格好いいーッ!」
「仗助くーん!」


 今日も女子から声がかけられる。…正直、こういうのってどうしたらいいのか分かんねェ。億泰は羨ましがってくるが、康一からは「大変だね」と言って同情したような眼差しを向けられた。あぁ、こういうのって本当にどうしたらいいんだ。きゃあきゃあ騒ぐ女子に適当に返しつつ、俺はさっさと教室へ足を向ける。
 ガラリとドアを開け、教室の中を見れば俺の席から二つ右にずれた席にちょこんと座る小動物……いや、山埜の姿が。両手で単語帳を捲るところなんて、もう完全にヒマワリの種を持ったハムスターだ。俺の席の右隣にいる男子が締まらない顔でそんな山埜を見ているのが何となくイラッとする。どうしてかは分かんねェけど。


「よぉー、仗助」
「仗助くんおはようー!」
「はよっス」


 俺に気付いた右隣の男子や、近くに立っていた女子が挨拶をしてくる。それに対して軽く返すことはできるが、それよりも今俺が通り過ぎ去ろうとしているすぐそこにある山埜の小さな背中に、その声をかけることが出来ない。
 ちょっと落ち込んでしまったその気持ちを、がたりと音を立てて椅子に座ることで発散する。今日も話しかけられなかった。話しかけられれば、きっと俺を物言いたげに見ている理由も分かるはずだ。(俺の自意識過剰でないならば、の話だが。)

 それから、一応話しかけるタイミングを見計らってみるものの、誰かと話す様子のない山埜に話しかけるなんて至難の業だ。誰かと話していれば、混ざって話すことも可能だというのに、山埜にはその気配すら窺えない。昼休みは、俺が億泰達と食べに行くせいで教室から離れる俺には話しかける時間も余裕もなかった。掃除時間なんて、班が違うから掃除場所が被ってすらいない。放課後になれば、億泰が俺を迎えに来てしまったせいで早々に教室を後にすることになった。


「……はぁ」
「何溜め息なんて吐いてんだよォ?」
「…お前のせいだっての」
「?俺何かしたかぁ〜?」


 したっつーの。でも、一番の原因はさっさと話しかけない俺なんだけどな。


「はぁああ…」
「何なんだよ〜〜!気になるだろォ〜!」


 騒ぐ億泰を余所に、俺は最後に教室で見た小さな背中を思い出した。



気になるけどよく分からない、話しかけられない。
明日こそは、挨拶くらいしてみっか!





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