私は、所謂コミュ障染みているところがあると自覚しています。人に話しかけられたらまず自分に話しかけられたものと思えず、自分に話しかけられたと分かったら分かったで顔は熱くなってどもってしまいます。そのせいで、クラスメイトにすら自分から話しかけることもできません。
 近所のお兄さん的存在の人には、「いい加減その性格をどうにかしろ」とよく言われます。でも、そんなに簡単に直せたら苦労しません。あと今日の晩御飯の材料を買ってこいとか言うの本当に止めてください。


「きゃー!仗助くぅーん!!」
「今日も格好いいーッ!」
「仗助くーん!」


 どうやら、今日も“彼”は登校してきたらしいです。“彼”とは、このぶどうヶ丘高校で知らない者はいないというくらい有名な私のクラスメイト、東方仗助くんのことです。
 リーゼントに学ラン、そして強面という見た目は確実にヤンキーな彼ですが、彼自身はとっても優しい人です。…何度か「ドラァ!」という掛け声とともに、誰かを殴っている姿を見た事がありますが、きっと気のせいだという事にしておきましょう。凄く怖かったというのもきっと気のせいでしょう。

 …先程も言いましたが、東方くんはとても優しい人です。それを知っている理由は、私が昔彼に助けられたからなのですが…まぁ、それは追々話すということでお願いします。ともかく東方くんは見た目ヤンキーですがとても優しい人なのです。
 そんな彼に、私は助けられたことがあるんです。きっと彼はあんな些細な出来事は忘れてしまっているでしょう。ですが、私にとっては忘れがたい、非常に重大な出来事だったんです。だから、私は彼にお礼を言うべくタイミングを見計らっているのですが…。如何せん、彼の容姿に言動、しかも周りの女の子たちの視線が恐ろしくて未だに話すことが出来ずにいるのです。
 その間…およそ三年間。私が中学校入学前くらいの頃から、今まで一度として東方くんに話しかけられずにいるんです。それほどまでに彼の容姿は特徴的だし、彼自身が女の子に人気があるのです。近寄ることすら憚られます。この話をすれば、近所のお兄さん的存在の人は「君は馬鹿じゃないのかい?普通、三年以上もかかって話しかけることすら出来ない人間なんて早々いないぞ」と厭味ったらしく言うに違いありません。あの人はそういう人です。

 ……話が逸れました。とにかく、私は昔、東方くんに助けてもらったお礼を言いたいのです。ですが、最近の東方くんは虹村億泰くんと広瀬康一くんという人達と一緒にいることが多くて更に近付きがたい存在になっているのです。虹村億泰くんは東方くんよりも強面な人で、素行もヤンキーそのものというか…私は恐ろしくて半径五メートルに入ることすらできません。そして広瀬康一くんなのですが、彼は見た目から温厚だし、私よりも低い身長で男の子らしからぬ可愛らしさがとても癒される人です。
 ですが、広瀬くんの彼女さんなのでしょうか…。黒髪のとても綺麗な女の子…確か、お名前は山岸由花子さん。その人が、広瀬くんに話しかけた女の子を殺意なんてなまっちょろいと言わんばかりの形相で見ていたのを目撃したことがあるのです。(私は怖くてその日眠れませんでした。)

 そ、そういうわけで、私は結局三年前のあの日から未だに東方くんに話しかけられていません。あぁ、席は近いというのに(といっても、彼の席は私の席から左に二つほどずれたところですが。)何故話しかけることすら出来ないんでしょう。こんな性格だから、私には友達すら出来ていません。学校に来て声を出すことなんて、授業で発表する時くらいです。


「よぉー、仗助」
「仗助くんおはようー!」
「はよっス」


 がたりと音を立てて東方くんが席に着きました。きょ、今日も朝の挨拶すらできなかった…!こんなんでは、お昼休みも掃除の時間も放課後も東方くんに話しかけることなんて夢のまた夢です…!!


「仗助、今日お前んちでゲームしようぜぇ〜!」


 虹村くんの声にハッとします。も、もう放課後だなんて…!?東方くんは帰る準備を整え、随分と軽そうな鞄を持って教室から立ち去ってしまいました。私はというと、ドアからちらりと見えた東方くんの学ランの裾を見ることしかできませんでした。

 …結局、今日も私は東方くんに話しかけられないまま一日を終えるのでした。



決してストーカーではないのです。お礼が言いたいだけなのです!
あぁ、近所のお兄さん的存在の人の嘲笑っている声が聞えてきそうです…。





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