今日も今日とて真ちゃんは可愛いデス。
最近気に入ったのか、偶然なのか、それとも俺が言ったからか分からないが、真ちゃんは同じ髪型でくるようになった。
偶然かもしれない。でも、自惚れしていいなら俺が言ったことを真ちゃんが気にしてくれるということだ。

正直嬉しい。

これはもうおは朝様様だ。




「しーんちゃん」


「なんだ」




放課後、部活のない日、真ちゃんは図書室で本を読む。
とくに読む本はないが俺は真ちゃんの隣に座って暇を持て余すのがもう習慣になっている。

こういう日の真ちゃんの可愛い所は、俺が声を掛ける時には必ず読むのをやめて顔をこちらに向けてくれるんだ。
それだけ?と思うかもしれないが、最初は本から視線を離さず「・・・」か「黙れ」の二択だったんだ。それを考えるとコレは喜ぶべきだろう。




「んにゃ、そういやぁ。昨日の大坪さんマジ怖くてさぁ鬼かと思わね?」


「そうだな」




一言言うと真ちゃんはいつも数秒眉を顰めてゆっくり本に視線を戻すんだ。
コレは一言で会話を終わらせちゃって少し気まずい、というか悪い。と考えているんだぜ。あ、勿論想像なんかじゃなくって少し前に真ちゃんが気まずそうに「お前はその、私といて楽しいのか?会話なんかもすぐに終わらせてしまうし・・」と言ってたんだ。

真ちゃんマジ天使!!

でも、そんな天使な真ちゃんとの進展は全然で、
おは朝の相性は抜群なんだけどなぁ・・・やっぱり、俺が真ちゃんより背が低いからなのだろうか。自分より低い男なんて願い下げだろう。
真ちゃんは自分の背が高いことを気にしているようで「背が高くてもいいんだよ」なんて自分より背の低い奴に言われても微妙だろう。


あぁ、なんか自分で勝手に想像したら凹んできた。
このまま俺の身長も凹まないでほしいな。なんてな。

はぁ、こんなんだと真ちゃんに想いを伝えるだなんて夢のまた夢だ・・・。





「高尾くん。今ちょっといい・・・?」


「んぁ?あぁ、いいよ」




俺は放課後時々他のクラスの子から呼び出されるときがある。
内容なんて、その子の顔を見れば分かる。
チラリ、とホークアイで真ちゃんを見るけれど真ちゃんは俺ともその子とも目をあわせようとしない。早く行け。ということなんだろうな。

真ちゃんは知っている。こういうとき俺が告白されるということを。
雰囲気で分かったのかもしれないし、もしかしたら俺が告白されている所に立ち会ったことが有るのかも知れない。



うへぇ、そう考えると酷くゾッとしない。




「ずっと前から高尾君が好きですっ」




緊張を孕んだ言葉と表情、目の前の子がどんなに真剣で、勇気を振り絞っているのかが分かる。
真ちゃん風にいうならこの子は俺よりも恋愛に人事を尽くした、ということなのだろう。




「ごめんな。応えてあげられなくて。ごめんなさい」


「っ」




その子の顔は悲しげに歪んだ。
この顔を見るのはいつになっても慣れない。




「バスケが大切っていうのもなんだけど、俺、好きな子いるんだ。他の子の事考えられない。」


「そう、ですか」




どちらも俺の本音。
目の前の子に対しての俺の精一杯の誠意。




「ごめ」


「謝らないで、いいの。薄々分かってはいたし。」


「っえ」




っえ、嘘。俺そんなにわかりやすいの!?




「それに、伝えられた。私の想い。知ってくれただけで、いいんです」


「・・・・・」




そういうと、その子は俺を横切って二人しかいなかった空の教室を出て行った。
はぁ、こういうのは何度あっても慣れない。慣れれない。

深く息を吐いたら、真ちゃんの元へと足を進めた。
何だかんだいって真ちゃんはいつも待ってくれているのでこれ以上待たせられない。




「わりぃ、真ちゃん待った?」


「別に、待ってないのだよ。ところで、さっきの女子はいいのか?私なんかよりそちらを優先させたほうがいいんじゃないか?」




真ちゃんは目を伏せながら言った。きっと告白してきた子に気を使っているんだろうな。
そんな真ちゃんにいつも用意してある言葉をだした、つもりだったんだけど



「やっだなぁ。真ちゃんったら嫉妬ぉ?嫉妬ですか?エース様置いていけるわけ無いでしょー。それに俺、好きな子いるしー」


「・・・そうか」




ついつい口から零れ落ちてしまった。自分も吃驚のカミングアウトだ。




「私も」


「ん?」


「私もいるぞ。好きな人くらい」


「えぇ!!?」




えぇ!!?うっそ!!?マジで!?
真ちゃんに、好きな人!!?冗談、な訳ないか!真ちゃんだし!!




「ちょ、マジで!?」


「マジなのだよ」


「誰誰!!?俺知ってる!?ていうか、マジでぇ!?」




宮地先輩や赤司だったらどうしよう・・・




「言うわけないのだよ。」


「あー、うぅ、まぁ、そうだよなぁ。でもいつの間にそんな・・・四六時中一緒にいるから秀徳生の可能性は低いな。ってことは、まさか他校の奴ら・・・?」




だー!もー!
こうなったら真ちゃんの意中の人の情報が少しでもほしい!
真ちゃんは嫌がるだろうがこればっかりは俺も引けねーんだ。ごめんな。




「じゃぁ、ヒント!ヒント頂戴!!俺もヒント出すからさ!!」


「はぁ!?」


「真ちゃんの好きな人とかすんげぇ興味ある!でも普通教えないよな。でも興味あるから、俺の好きな人のヒントも出すから真ちゃんが好きな人のヒント頂戴!!」


「そういうこっちゃないのだよ!!!」


「先手必勝!!真ちゃんが知ってる人!」


「あー、もう、馬鹿尾め」




とんでもない展開にしてしまった自覚はあった。真ちゃんは律儀だからきっと最低でも1つは教えてくれるんだろう。
真ちゃんは小さくため息をつくと口を開いた。




「私の、好きな人は、高尾、お前も知っている人物だ。」


「へ、ぇー・・・。そうなんだ」


「これ以上はトップシークレットなのだよ」


「・・・りょーかいー」




最後の言葉を付いてさえいなければ真ちゃんに告白されていたのに、クソ、おしい。
あとから何だか恥ずかしくなったのか真ちゃんは話を切り上げて席を立った。今の真ちゃんに何を聞いてもきっと答えてはくれないだろうな

俺は席を立った真ちゃんを引き止めることも、腕を掴んで自分の想いを伝えることもできないまま真ちゃんに続いてゆっくりと席を立った。
あそこで、好きだと。言ってしまえなかったのは、やはり臆病だから。
嫌われたら?今の関係が崩れてしまったら?告白してフラれたら?俺が言ったことで真ちゃんが傷ついてしまったら?

どんどんでてくる心の声が俺を臆病者にしていくようだ。









今日も自分のノルマをこなして体育館を閉め、真ちゃんと一緒に下校する。
片思いする顔も知らぬ人から見れば俺の定位置は羨ましいものなのだろう。でも、俺からすればまだまだほど遠い。
献身的な俺にだって願望くらいある。



名前で呼んでほしい。呼びたい。

手をつないてほしい。繋ぎたい。

ずっと一緒にいたい。いたい。

このそんな日々を夢で終わらせたくない。いやだ。




「ずっと前から真ちゃんのことが好きなんだ」




俺の横を歩く真ちゃんに何度行ってやろうかと思ったことか分からない。
家への分かれ道。

手を振る真ちゃんを見る度、誰かに奪われてしまうくらいなら伝えてしまったほうが良いのではないかと毎度毎度おもう。

だけど、今日も今日とて言えなくて、分かれ道でただただ手を振った。



今日もまた言えなかった。
明日もまた言えないかもしれない。
もしそれがずっと続いて
高校を卒業して
いつの間にか真ちゃんと会わなくなって
どこのどいつかも分からない奴と真ちゃんが、

真ちゃんが、

手を繋いで?
名前を呼び合って?
笑顔を見せて?
抱き合って?
俺にさよならって・・・・




「高尾、さよなら」




ふざけるな!!!!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!




想像したビビョンに絶望した。恐怖した。
頭が真っ白になって思わず走り出した。今、とてつもなく真ちゃんに会いたくなった。


走れ。
行け。


今でも頭の中は真っ白なままで、ただただ真ちゃんに会いたくて。
走って走って走って緑の髪を視界に入れた瞬間大きな安堵感が体を包んだ。




「ずっと前から好き、好きなのだよ。好き、」




真ちゃんの、切ないまでの告白。
涙声になっていて俺の頭をまた真っ白にするには十分すぎた。




「真ちゃん!」




俺の声に反応して真ちゃんは振り向く、
その顔は涙で濡れていて、眼は驚きで見開かれた。




「高、尾」





俺は今どんな顔をしているんだろうか
分からない。だけど、そんなことどうでもいいと思うほどに、俺は真ちゃんの腕を掴んだ。




「真ちゃん。なんで、泣いてるのさ」




真ちゃんは答えず、ただただ今日のラッキーアイテムを抱きしめた。
心臓が煩いくらい高鳴っている。




「真ちゃん。いつも俺と別れた後泣いてたの・・・?」


「お前には、・・・関係ないだろっ」


「ある!!」


「ないのだよ!!」


「あるんだよ!!」


「ないったらないのだよ!!!」


「あるったらあるんだよ!!好きな子が泣いてたら気になるし心配するだろ!!!」


「え」


「あ」




関係ない。と言い切る真ちゃんにムキになって勢いついて言ってしまった。
真ちゃんのきょとんとした顔を見た瞬間、自分が何を言ったのか思い出して顔に熱が集まった。




「あ、その、えっと、今のは」


「・・・冗談、何なじゃねーかんな。本気の本気そんで本音の本音だよ。
ずっと言いたかった。伝えたかった。」


「高、」


「いきなりこんな事言われて真ちゃん困るよな。好きな人いるっていってたし、ごめん。
でも、ソイツに真ちゃんを奪われたくないんだ。真ちゃんを間接とはいえ泣かす奴に真ちゃんを奪われたくない。嫌なんだ。」






無茶なことを言ってる自覚も、困らせている自覚も、自分が情けない顔で情けない声を出している自覚もあった。
真ちゃんは赤く染まった顔で金魚のように口をパクパクさせ、静かに俯いた




「真ちゃ」


「そんなこと、言われたって、無茶なのだよ」


「っ」




真っ赤な顔のままの真ちゃんの言葉が胸に突き刺さった。
罵倒されるよりも辛い。殴られるよりも衝撃が大きい。でもそれ以上に真ちゃんの流れ続ける涙を拭ってあげたかった。




「無茶いってる自覚はあるんだ。ごめん。泣くほど嫌だった?ごめん。でもお願いだから涙だけは拭わせてよ」




真ちゃん。そう言おうとした。
言う前に顔が赤く染まり頬が涙で濡れている真ちゃんが眼を吊り上げて顔を上げ、声を張り上げた。




「違う!!!!」


「え」


「無茶じゃない!嫌じゃない!!でも無茶なのだよ!お前が泣かせてるのに泣かせてる奴に奪われたくないなどと!お前が!!高尾が、好き、なのに・・・」





また真ちゃんの眼から涙があふれた。
今度は自然に手が動いて真ちゃんの頬に触れた。熱くて冷たい。触れたとき小さく真ちゃんが震えた気がした。




「ごめん」


「なんだ」


「ごめん」


「高尾」


「ごめん」


「謝るなバカ尾」


「ごめん。真ちゃん。」


「うん」


「俺」


「うん」


「ずっと前から真ちゃんのこと、好きなんだ」


「うん。私もーー」




二度も言わせるつもりは無かった。思わず抱きしめた。





ずっと前から、好きなんだ




今でも、凄く







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