こんなにも愛しい(成辺)?


転がったボールを拾い上げて、グラウンドを見る。

人数の少なくなった…今、この場には彼もいない。

点在している選手たちを集めているらしいから、どこにいるかさえ分からない。

俺も連れていくと大騒ぎしたアイツも…成神も。

空を見上げていると、腹部に軽い衝撃が。

「咲山?」

「集中しろ。レギュラーはほとんどいねぇんだ。」

そう言われて、再びアイツを思い出す。

女々しい、自分でもそう感じて、頬を叩く。

アイツは、日本代表になれたのだろうか…

(成神…)

ボールを蹴り上げると、また見当違いの方向へ。

転がったボールは、不意に誰かの手の中に。

「そのボ…」

言葉が止まった。

「先輩…」

「成、神…?」

ボールを手にしていたのは、今まさに待ち望んでいた少年だった。



「辺、見先輩っ!」

いきなり胸に飛び込んできた小さな体を抱き止めれば、濡れる感触。

「お、おい…成神?」

「すみません、俺…勝てませんでした。」

その体の向こうに見える、源田や寺門は何も言わない。

只、成神だけが言葉を編いでいく。

「もう少しで、もう少しで勝てたんです。

でも…やっぱり、あの円堂守という存在には勝てなかった。

日本代表になりたかった…」

ボロボロと涙を溢す彼を今は、強く抱き締めることしかできなくて。

若冠の一年生だ。

努力して、努力して…それでも届かない。

そんな痛々しい彼の、頬を伝う涙をそっと拭って。

「…先輩。」

「なんだ?」

「俺、もっと強くなります。」

そして…

「先輩の後ろを守りきって見せますから!」

そう、笑顔で宣言された。

(まぁ、覚悟だけはしておいてやるか)



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