Black valkria




「紫乃ちゃん!」


「遊戯君、皆…、あれっ」


ロープで縛られて動けない私の元に走り寄ってくる遊戯君達。けれど、安堵する間も無く、私は慌てた声を上げた。
何故か、私の体もバクラ君と同様に消え始めていたからだ。えぇ、ちょっ何これ!


「紫乃おめぇ身体、消え掛けてるぞ!?」


城之内君の上擦る声に皆も私の身体の変化に気付き、驚いた顔をしていた。
遊戯君は走りながら私に手を伸ばす。でも、多分間に合わずに私の体は消えてしまうだろう。





「皆…私の昔の名前はアスタリアって言うんだ!」


はぁ、お前こんな時に何言ってんだよ。と本田君がそんな顔をするが、私は構わず続ける。順を追って説明している時間は無い。
消える間際バクラ君はまだゲームは終わっていないと言った。その言葉で大事な事を思い出した。
過去の記憶を体験し終えたと安心していたけど、まだ私の出番があった事を!


死によって、過去の記憶の体験から、解放されたと思っていた。迂闊だった。
――あの砂漠の悪夢へと続く恐ろしいシナリオが待っているのをすっかり忘れていたのだ。





「さっき死んじゃったんだけど、これからまた生き返るみたいなんだ!」


「おい待て!死んで、生き返る予定って…分からんぞ!」


どんな時でも鋭い本田君の突っ込みに私も内心頷く。自分だったよく分かっていないんだ。


この記憶の世界は実際にあった事実とは少し異なっているらしい。けれど、それは修正範囲内で、大まかなシナリオに変わりは無いみたいだ。
これから、何かの方法で過去の私が蘇る。だから、現在の私はまた過去の人格に戻ってしまうんだ。


「多分、前と同じなら、過去の私には今の私の記憶は無いかもしれない…」


また皆に迷惑を掛けると思う…怖いけど、でも、私――頑張るよ。
丁度、言い終えた時、息を切らせた遊戯君の伸ばした手が私の肩に少し触れた。あ、間に合った。


「私も、最後まで諦めないよ」


今のデュエルで遊戯君が最後まで諦めなかった様に…。
駆けつけてくれた遊戯君達に私は笑い掛けると、意識が飛んだ。










太陽が、見えない――。
空は分厚い雲に覆われ、薄暗く夜の帳が降りつつあるような静けさに包まれている。





『さぁ、第二幕だ』






END


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