「君、遊戯君じゃないかい?」
船の狭い通路をぎゅうぎゅう詰めで移動するデュエリスト達に今は譲り合いの精神なんて微塵も無い。
我先にと彼等は歩みを続けた。お陰で船に乗っているのに満員電車に乗った気分が味わえている。
そんな最悪な気分の中、インセクター羽蛾君のその一言で遊戯君は注目の的となった。
「羽蛾君、それに竜崎君!」
「ウース!」
「この間の大会優勝おめでとう。羽蛾君」
「いやいや」
「ま!ワイが手加減してやったからな!」
社交辞令的な会話が盛り上がる中。その隣で私は俯き、顔を見せない様に歩いていたら、首が痛い。
「(ヤバイヤバイヤバイ!)」
この距離はヤバイ!私の現在地は遊戯君のすぐ隣。このままじゃ、いずれ竜崎君に見つかる。話が盛り上がっている内にここから、離れないと。
実行に移そうと一歩踏み出そうとした瞬間、「あ、あ゙ぁー!アンタ鏡野はんやないか!」グッドなタイミングで竜崎君と目が合ってしまった。
「ゲ!りゅ、竜崎君…」
咄嗟に愛想笑いを浮かべたが、内心どうしようと頭を抱えていた。
「アンタ今、小さい声でゲって言ったやろう」
「言ってない言ってない!聞き間違いか、または聞き間違いだよ」
「馬鹿にしとんのか!同じ事なんべん言うんや!それより、何でこの前大会出なかったんや!?」
ワイとの約束すっぽかしおって!
ノリツッコミを繰り返していると竜崎君はずかずかと遊戯君を押し退けて私の前にやって来た。
キッ!と鋭い目で睨み上げ、私に掴み掛かろうと胸倉に手を伸ばしてきたので――私はその手を反射的に叩き落した。
ベシ!
「
痛!!いっつたぁ!!何すんねんっ!?」
うわ、今凄い良い音した。叩き落された手を擦りながら、竜崎君は怒りに燃えた目で睨み上げてきた。
「あ、ごめん。つい」
「ついで人の手はたくな!ド阿呆!」
「大会の事もごめんね。ちょっと、出場出来ない理由が出来ちゃって」
実は家を飛び出してたもんで!
とは言えない。曖昧に言ったら更に竜崎君の目は怒りに燃えた。
「そんな言い訳聞きとうないわ!聖さんの試合の時だって、来なかったやんか!!この腰抜けぇ!」
聖。
その名を聞いた途端心臓がドキンと跳ねた。表情が少し強張るのが、自分でも分かる。そんな私にお構い無しに竜崎君は続けた。
「王国に着いたら、アンタの最初の相手はワイや!ワイと最初に戦え!!」
「あ…うん。それは勿論だよ!」
「逃げたら、アカンからな!」
最初から、そのつもりだ。頷くと竜崎君は疑い深い目で私を睨み上げていた。
「そうや…聖さんはこの船とは別のルートで王国に来るらしいで」
王国にはアンタの逃げ場なんて無いからな。
去り際にそう言い残して竜崎君は去っていった。
「…ハ、ハハハ」
竜崎君の姿を見送りながら、私の口から渇いた笑いが漏れた。凄い言われ様だ。まぁ……仕方が無いか。
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