-一週間後-
とうとう王国へ向かう時が来た。私はいつもの学ランに鞄だけという身軽な装備で童実野埠頭へ向かう途中で足を止め、自分の腕を見下ろした。
「おばさん」
≪おばさん言うな≫
「お姉さん」
≪何?≫
「鞄に入ってもらえませんか」
今腕に抱えているぬいぐるみに…千年お姉さんに言う。
擦れ違う人皆が、痛い視線を私に向けてくるのをヒシヒシと感じていた。
うわ、あいつ高校生にもなってぬいぐるみ抱えてるわ!キモイ!って感じの視線!
≪潰れるから、嫌よ≫
「や、本当お願いしますって!ファンシーなくまさんを抱えてデュエルとか出来ないですから!」
即答で答える愛らしいぬいぐるみ相手に泣きついた。集中出来ないし、私痛い人になっちゃうよ。や、もう…なってるか……。
≪しょうがないわね、じゃあ…≫
試行錯誤の末、お姉さんは鞄のストラップと一緒に引っかかる様にして運ぶ事になった。
≪形が崩れるよりはマシよね≫
「どっちにしても、この歳でくまさん持ち運んでるって事には変わりないから、恥ずかしいな」
頭をぐしゃぐしゃと掻いて渇いた笑いを漏らした。まぁ、いいよ。これを乗り越えれば、お姉さんは元に戻るんだからな…!
「紫乃ちゃんー!」
振り向くと遊戯君達がいた。
「あ!皆」
鞄を背負い直し、遊戯君達の所に駆け寄る。背後からおばさんの≪ぎゃあ!鞄に顔面ぶつけた…っ!≫と悲鳴が聞こえた。
聞こえないフリをしていよう。怖いから、振り向かないでいよう…!
「見て、あの人だかり!」
杏子ちゃんの指差す方にDMのカードを手にした少年少女達がいた。
あのデュエリストが全員今回の大会のライバルか…ちょっと、多過ぎじゃない?
「決闘者の面々て訳だね」
「ほら、あの人!この前の大会で優勝した昆虫野郎!」
「そして、準優勝者の…!」
大きな眼鏡の少年が確か、インセクター羽蛾君に。赤い帽子に長髪の少年。ダイナソー竜崎君……うぉあ、竜崎君!?
驚いて固まる私に気付いたお姉さんが、鞄をよじ登り肩まで上がってきた。
≪? 紫乃、どうしたの?≫
「竜崎君は…昔、DMの大会で闘った事があって」
竜崎に気付かれない様に声を潜めながら、お姉さんの耳元(?)で囁いた。
≪だから、どうしたっていうの≫
「あの時は手札が良くって…ワンターンキルで竜崎君に勝っちゃって」
ちょうど装備魔法とかあって。デーモンの斧。悪魔のくちづけ。魔導師の力…etc。
≪あら≫
「それで、何か…ちょっと目をつけられちゃって」
≪……シメて来る?≫
小首傾げるという可愛いポーズでどうする?と言うお姉さん。
「し、シメませんッ」
ちくしょう、そのポーズ可愛いな!!
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