≪コラコラー!ワシはこうして元気でピンピンしとるわい!皆そー深刻になりなさんな!≫
「じーさんの言う通り、落ち込んでたって何も解決しねーぜ!」
暗く淀む雰囲気になるとおじいさんが明るい声で言った。
だけど、俯いている私と遊戯君に城之内君は励ます様に言った。
「うん……」
「僕はなんとか大丈夫。ただ…もう一人の僕がね…」
「元気ないの…?」
もう一人の遊戯君とはモンスター・ワールド事件の時に現れたと言う遊戯君のもう一人の人格の事だ。
「うん。ペガサスに負けた事で、かなりね…」
あの変なビデオ相手にデュエルで負けたのか。それはきっとショックが大きいだろう。変人な上にウザイときている。
「オラオラァァァ、もう一人の遊戯!紫乃も元気出そーぜ!」
どこからか、メガホンを取り出して遊戯君の首に掛かっている千年パズルに向かって叫ぶ城之内君。
「わ!?」
「城之内君!どっからメガホン出したの!?」
四次元!?城之内君、君マジシャンになれるよ。
「細けー事は気にすんな!とにかく!じーさんと紫乃のおばさんを助けるにはペガサスを倒するしかねーぞ!遊戯!紫乃!」
「うん!ペガサスは言った…『王国』に来いってね!」
「そこでDMのデュエリスト・キングを決めるっと…」
あれ、私何か変な事言われた様な気がしたけど……今は忘れる事にしよ。
≪デュエリストの王国…問題はそれがどこにあるか皆目分からんちゅー事じゃの≫
≪あのイカレ外人の事だから、とんでもない所を会場にしてるに違いないわ≫
くまさんとビデオカメラの不思議な会話。
見てて和むなんて言ったら、本田君に怒られそう空気なので言うのはやめといた。
「ペガサスは千年アイテムを持ってるって言ってたよね」
不意に漠良君が城之内君に尋ねた。どうやら、非常に千年アイテムに興味があるらしい。
「持ってるどころか、目ん玉くり抜いて埋め込んでやがるのよ!」
左目を瞑ってこんな風になと城之内君は説明した。そう言えばペガサスはカーテンみたいな変な髪形してたな。
「ひょっとして、その『王国』に行けば千年アイテムの秘密が分かるかも」
「僕の持っている『千年リング』…」
そう言って漠良君は鞄から、問題の千年リングを取り出すと私以外は皆飛ぶ様に後ろに下がった。
「うわぁ!?お前まだそんな物騒なモンを!!」
「どうしたの?ネックレスがいきなり人を襲う訳でもないのに」
まぁ、オカルトグッズだけど…。
モンスター・ワールド事件の時にこの千年リングに宿る邪悪な意志に皆、酷い目に遭わされた。
だけど、その時の記憶が曖昧な私にはそれ程恐ろしい物にはどうしても思えなかった。
「そうだよ、大丈夫。これは身に着けてなければ、ただの物だから。これは父さんが、エジプトの骨董屋で買って来た物なんだけど…皆も知っての通り未知の意志が宿っている。そして、遊戯君のパズルも…」
「僕はどうしても知りたいんだ。千年アイテムの謎をね…ペガサスは間違いなくその秘密を知ってるよ!」
「千年アイテムの謎…」
私はオウム返しに呟いた。するとズキ…と左胸に鈍い痛みが一瞬走った。
「…っ!」
今度は何かが、頭の中に直接響いてくる。
―――!
何…これは誰の声、一体何を言ってるの…!?
声にはならない声が頭の中で響いた。得体の知れない恐怖に私は俯き無意識に痛む左胸を押さえた。
「――紫乃ちゃん?」
そんな私に気付いた遊戯君はどうしたの?と心配そうに見上げていた。
「あ……!ごめんっ。ちょっと、頭冷やしてくるね…ッ」
「おい、紫乃!?」
そう言って千年お姉さんの魂が、宿るぬいぐるみを持って何かから、逃げる様に教室を飛び出した。
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