「そんでさ、お前ともう一人の遊戯のお陰で千年リングに操られていた漠良を助け、ボスのゾークを倒したんだぜ!」
昨日起こった事を教えてくれた。
吟遊詩人なんて、戦士や魔銃士より、大した戦力では無いと思っていたが私はとても、戦闘に貢献していたらしい。
「そんな事が…だけど、全然覚えてないよ……」
「で、その後にお前いきなりぶっ倒れてさ。悪いと、思ったんだが鞄から、鍵を拝借して、上がらせてもらったぜ」
「あ!あの……着替えは…」
そう言えばパジャマ着てた!
着替えって…やっぱり。チラっと、杏子ちゃんを見た。
「大丈夫よ。着替えの時は男追い出したから!」
「ご、 ごめんね、杏子ちゃん。嫌な物見せちゃって……」
見られたよね…無い胸を。自分の無い胸を押さえて俯いた。ち、畜生、女子高生だって言うのに-Aって…。
「ううん。可愛いかったわよ」
意味ありげに笑う杏子ちゃんに泣きそうになった。
何が!?何が!?一体何を言ってるの杏子ちゃん!?えぐれた胸が!?平らな胸が!?
「
さくらんぼ」
「…!あ、あ゙ぁ゙ーっ!?」
ボソリと、杏子ちゃんが呟いた意味がすぐに分かった。昨日私が着けていた下着がさくらんぼ柄だった事を……。
いや、さくらんぼは私の趣味では!千年お姉さんが手持ちのだけじゃ足りないでしょ、と好意で買ってきてくれて…!折角の好意を無駄にしない様にと…ッ!!
「お、何?さくらんぼが?」
「何でもない!何でもないよぉお!」
城之内君が会話に首を突っ込んできて、話題を避けるのに必死になった。
「紫乃!」
「ぐへぇ!!」
名前を呼ばれて、振り返る前に城之内君から、強力なタックルを食らった。
その衝撃で自分でも、驚く様な潰れたカエルのみたいな声が出た。
あの、城之内君…私の性別忘れちゃったのかな。一応、女の子なんだけど。
「次の時間数学だろ?俺今日当てられるんだよ…頼む!この問題教えてくれ!」
恨みがましく城之内君を見ると、ノートを開いて、差し出してきた。
何かな、これと尋ねるとノートの余白を指し示し、そう言った。
「い、いいけど…後ろから、いきなりタックルはなしね。不意打ちって結構痛いんだよ……」
だからって、正面からでもいいって事はないけどさ!
「おう」
「えっとね、問9はね…」
あーだ、こーだと数式を書いて、ノートの余白を埋めていく。
城之内君の字と私の字が違い過ぎて、このページだけが違和感がある。
「サンキュー!助かったぜ」
「城之内、次はちゃんと自分でやりなさいよ!」
それ、そんなに難しいくないんだし。杏子ちゃんに促されてはいはいと、頷く城之内君。
「わーってるって!」
俺には全然分かんねぇんだよ!
「分からないところがあったら、いつでも聞いてよ。控えめに手伝うから」
「あぁ(控えめ?)頼りにしてるぜ!」
笑いながら、城之内君は私の頭をぐりぐりと、子供にするみたいに撫でた。
最初はそれ程でもなかったが徐々に力が強くなっていく。
最終的には何故か、首を羽交い絞めにされている。
「ギブギブギブっ!?」
何で!?どうして!?男同士のじゃれ合いに発展するんだ!
ボコス!!
「城之内君、いい加減にしようね」
凄い音がしたと、思ったら、城之内君が突然倒れた。
後ろには城之内君のすぐ側に転がる野球ボールと、漠良君と話していたはずの遊戯君が笑顔を浮かべ立っていた。
「……あれ?城之内君、どうしたの」
後ろから、首を羽交い絞めにされてたので私には後ろで何が起こったのか、分からなかった。
「さぁ?本当にどうしたんだろうね。突然、ボールが後頭部に直撃して、気絶したんじゃないかな」
「そ、それは大変だね!城之内君はこのままで大丈夫なの?保健室とかに運ばなくても……」
そう言い掛けると、
「平気よ。城之内なら、その内甦ると思うから」
「よくある事だしな」
こんな光景を見慣れているのか、杏子ちゃんと本田君は「ほっとけ、ほっとけ」と暢気に言った。
「紫乃さん。城之内君なんて、放置しといて、僕とデュエルしよう」
「放置しとくの!?」
こ、これが公認の放置プレイ!?
漠良君でさえ床に転がっている城之内君を気にしていなかった。
END
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