「そう…そんな事があったの」
今日の出来事を手短にお姉さんに話した(勿論、刈田の事なんて、微塵も言わない)。
「だけど、紫乃は獏良君と仲良くなりたいのね」
「うん、友達に。私だけじゃない。皆だって、そうだったよ。でも、きっかけが無いし…」
漠良君は心を閉ざし掛けている。下手に踏み込めば彼を傷付けてしまう事になる。
「フフ、きっかけ?そんなの簡単よ」
急におかしな笑い声を上げ、お姉さんはどこからか、紙袋を取り出した。
私はポカンとして、お姉さんを見つめ続ける事しか出来ない。
「今日のお土産は不○屋のシュークリーム!そして二人暮らしの家に何故か、シュークリームは三つある」
それは何故でしょう?ふふ、獏良君がシュークリーム好きって事はあらかじめリサーチ済みよ!
「紫乃、これを持って獏良邸に乗り込むのよ」
そして獏良君を落とすのよ!紙袋を私に持たせ、反対側の手をぎゅっと、握りながら、「紫乃、ファイト!」とか言うお姉さん。
「…お、落としてどうするー!?友達になりたいって言ったじゃないですかーっ!!」
しかも、何勝手にリサーチしてるのですか!?
「あら、違うの?私はてっきり、獏良君に惚れちゃったのかと」
「………え、ちょ、何言って…!?ちが、違いますから!!」
きょとんとして言うお姉さんの言葉が私には一瞬理解出来なかった。
お姉さんの言っている事を理解した瞬間、私は顔を真っ赤にして、危うく紙袋を地面に叩き付けそうになった。
「とりあえず、コレって…"シュークリームを餌に仲良くなろう作戦"ですか」
「その通りよ」
月並みのネーミングでも、お姉さんは大満足らしい。恐る恐る尋ねるとグッと、親指立て、頷かれた。
でも、コレって何か、餌付けみたいじゃあ…納得が出来ない様な、コント臭いと言うか。
いつまでも、渋っていると、お姉さんにグワシッと、首根っこを思いっきり掴まれた。
「つべこべ言わずに逝ってらっしゃい。放り出すわよ」
「字が明らかに違いますよーっ!?」
その後、引き摺られる様に強制的に家から放り出された。いや、お姉さん本当に力持ちですね。
振り返ると、鉄色の扉越しにガチャンと、鍵を掛ける音がして、チェーンまでされる音がした。
漠良邸の玄関前で私はうろうろと周りを行ったり来たりと不審者の様に歩き回っていた。
いきなりの訪問は驚くよね。だって獏良君は私が、隣に住んでいる事知らないだろうし。
その一
「おばさんが、シュークリーム買って来たんだけど、数があまっちゃったから、一緒に食べませんか?」
いやいや、待て待て…それよりも何故、私がここにいるかを入れなければ。
その二
「あ!やっぱり、獏良君の家だったんだ!私達の部屋も隣同士だったんだね。はい、これ引越しの挨拶の代わりのシュークリーム」
う〜ん。
その三
ストレートに「お隣さん。一緒にシュークリーム食べませんか?」
………。
その四
「獏良君と友達になりたいです。お近づきにシュークリーム一緒に食べませんか?」
なんじゃそりゃあ。どれもこれも、微妙だ。
「うん。いいよ」
誰もいなかったはずの背後から、返事が返ってきた。え?まさか、今までの声に出てた?
恥ずかしいなぁ。でも、一体誰が返事を……振り返るとニコニコ笑顔の獏良君が。
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