Black valkria




救世主様!そんな勢いで教師達に囲まれている一人の生徒がいた。大人達の隙間から、見えたのは、
柔らかそうな色素の薄い長い髪に優しい瞳をした線の細い恐ろしく綺麗な男の子。
私と同じ様に他校の制服に身を包み、大勢の大人に囲まれていると言うのに彼は酷く冷静だった。


「鏡野君と獏良君は同じクラスに転入だから、仲良くする様にね」


今まで怯えていた教師が私と漠良君を向かい合わせにして、紹介する。
珍しい事に転校生をクラスの人数の関係で同じクラスにしたらしい。


「初めまして、獏良了です」


「鏡野紫乃です。よろしく…」


私が今まで遭遇した事の無い男の子だ。品があって、儚い雰囲気が漂っている。これが美少年…!
私も笑顔で答えるが、彼の様に上手く笑えていないと思う。困った様な変な顔でなければいいんだけど。





「じゃあ、そろそろ教室に行こうか」


「紫乃、ムカつく奴がいたらすぐに言うのよ。そいつ等まとめて締めて「大丈夫!きっと、いい人しかいないと思うから」


大丈夫。私もう高校生だから!例え、ムカつく奴がいたとしても、絶対お姉さんには言わないでおこう。そう強く心に決めた。










教室は見慣れぬ二人の生徒を前に酷くざわめき立っていた。それを宥めながら、教師は薄汚れた黒板に転入生の名前を書く。


「大丈夫だよ。鏡野君」


私は生まれて初めての転入で、酷く緊張していた。教室の前に立つと足が宙に浮いている様な危うい感覚に陥ってしまう。
すぐ隣に居る漠良君にはそれがよく伝わっているのだろう。「すぐに慣れるよ」と、漠良君は小さく笑い掛けてくれた。


「(…漠良君は転校とか、慣れているのかな)」





「えー皆。今日から、このクラスに転入した…」


「獏良了です。よろしく」


「鏡野紫乃です」


あ、緊張して、よろしくって言うの忘れた。いきなり躓いた!お先真っ暗だ!
どうしようと、真剣に悔やむ私の耳に女生徒達の黄色い(ミーハーな)悲鳴が届いた。
それは漠良君に向けられている物だ。そうだよ。漠良君ってほら、凄く綺麗だから!
絶対に私は含まれていないぞ。自己暗示の様に強く自分自身に言い聞かせた。





「それじゃあ、とりあえず、獏良君の席は…城之内の隣が空いているな」


「おーここだ!ここー」


教師の言葉にすぐに反応して、声を上げる一人の男子生徒。
だらしなく椅子に凭れながら、こちらに大きく手を振っていた。金髪でちょっと不良っぽい。





「獏良君、気をつけてね〜」


「城之内は学校一の環境汚染物質だから〜!」


「うっせぇぞ!!」


女子の非難の声が上がり、酷い言われ様だ。どこの学校にもこう言う可哀想な扱いの男子っているんだな。


「鏡野君の席は…武藤の隣も空いているな」


「武藤……?」


凄く聞き覚えのある苗字にきょろきょろと、みっともなく辺りを見回した。再び胸にあの淡い期待が蘇る。





「紫乃ちゃん」


控えめな声で名前を呼ばれ、声の主の場所が定まった。笑顔で私に向かって小さな手を振ってくれる遊戯君を見つけた。
一瞬、これは夢じゃないだろうかと、思ってしまう。頬を抓りそうにもなった。夢じゃないよな。





「(ちきしょう、可愛いな)遊戯君」


前の人に隠れて気付かなかったが、間違いない本物の遊戯君だ。
同じ学校だったんだ。遊戯君のお陰で緊張が少し解れた。


「遊戯君も、童実野高校だったんだ」


「うん。凄い偶然だね」


席に着くと、小さな声で許される限りのお喋りをした。





「獏良、鏡野。俺の仲間を紹介するぜ!」


休み時間になると先程、女子にぼろくそ言われていた城之内君が私と漠良君に友人等を紹介してくれた。
女子に言われている程、悪い人の様には見えない。どちらかと言うと、明るくて、グループの中心的の人物だ。


「遊戯と鏡野は知り合いなんだ?」


先程の遊戯君と私の小さな会話を聞いていたのだろう城之内君が言った。


「うん!ね、紫乃ちゃん」


「うん」





「んで、こっちのが本田に杏子」


「角刈りの男前が本田君で、ミス童実野高校が杏子ちゃんだね。よろしく」


「アハハ、よろしくね!」


「なんちゅう覚え方だ…まぁ、よろしくな」


会話はすぐゲームの方へと進んだ。類は友を呼ぶ、と言う様に私も漠良君もゲームが大好きだったのでとても盛り上がった。


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