Black valkria




教室の隅の席はいつも空席だった。それについては誰も、語らない。
不登校の生徒の席なのか、それとも、苛めにあったとか…こんな明るいクラスに限ってそれだけは無いか。
転校当初は気になっていたが事だが徐々に気にも、留めなくなった。





「あ」


休み時間先生に頼まれ、次の授業で使う教材を教室に運んでいる途中に珍しい人物を見掛けた。
その人物に気付くと、他の生徒達が廊下の端に寄って道を開けていた。高校生とは思えない高い身長に素敵なルックス。
彼は通学鞄の代わりにジュラルミンケースを引っ提げ、大股で開けた廊下を歩く。
あぁ、彼も童実野高校に通ってたんだ。えっと、確か…名前は。





「ふん、何だ貴様か」


「どうも…えっと」


相手は私に気付くと、そうどうでも良さそうに呟いて、過ぎ去ろうとした。
彼が真っ直ぐ向う先は一年B組の教室。名前がもう少しで思い出せそうで中々、思い出せない。





「えっと…確か、海、う…ま」


王国で一回、顔を合わせて以来会っていなかったが…確か、彼の名前は…名前は。
彼がB組みの教室の扉に手を掛けた瞬間に思い出した。





「そうだ、うみうま君!





「かいば!!!か・い・ば・だ!!」


読み方が違う!!
うみう…じゃなくて、海馬君はわざわざ振り返り、ずんずんと私に歩み寄りながら訂正してくれた。
そうか、あの空席って海馬君の席なんだ。でも、何で皆海馬君の話題を避けてるのかな…。





え。――休んでた間、元気だった?」


海馬君、顔怖いな…折角、綺麗な顔してるのに勿体無い。
名前を間違えられ、屈辱だと、迫力ある表情でジリジリと迫られ、私は手に持つ教材を盾にしながら、後退る。


「そんな事、貴様には関係ないわ!」


「大変だよね、高校生で社長って。でも、海馬君は高校生に見えないから、ピッタリだよ」


疲れてる?だから、そんなにピリピリしてるの。それとも、単なるカルシウム不足?


「俺が老けていると言いたいのか」


「う、にゃ……んいやぁ!大人びてす、素敵だなぁって!アハハハ!」


青筋立てた海馬君を見て、慌てて、言い直すと、更に彼の米神がこれ以上にないってくらい引き攣った。
え、地雷?これって、地雷だった!?





「鏡野キサママァ!裏返った声で言い直しても遅いわ!」


「ぎゃああ!?うみ、じゃね!海馬君!落ち着いて、話し合えば分かるって!」


私の名前覚えてくれてたんだ。
そんな感動も、海馬君にくわっとジェラルミンケースを振りかざされ、そしてその一撃をかわすのに必死になり、気付く余裕はない。
私は授業で使う大事な教材を海馬君に放り投げて、駆け出した。





廊下でばったり
(待て、鏡野っ!!)(ぎゃあああー!ごめんなさいっ!!)


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