Black valkria




カーテンの隙間から、差し込む朝日。頭上からは騒がしいアラーム音。
枕に顔を埋めたまま目覚まし時計を乱暴に手繰り寄せ、アラームを切った。
ふと、時計を見ると、ぼんやりとしていた頭が一気に覚醒した。


…う、そ、嘘だろうッ!


「ぎゃあああー!?九時十分前ぇ!」


ここから、童実野高校まで約三十分。九時半までには教室に入らないと遅刻だ。今から、支度して良くてギリギリ。悪くてアウト。
どえええ、何で六時半にアラームセットしたのに、何で何で!ちゃんと、セットした…はず、いや、もしかしたら。
不意に思い当たる原因が頭を過ぎる。昨日、アラームを止め様と、うっかり、床に叩き付けたのが誤作動の原因じゃあ――。


こんな事今考えても、時間の無駄だ。十分で身支度を整え、戸締りを確認し、私は家を飛び出した。
先に家を出たお姉さんが作ってくれた朝食のマーマレード入りパンケーキは帰ってたら、食べよう。





「(うわ、今日の一限目蝶野先生だ)」


遅刻したら、授業中ずっと、ネチネチネチネチ嫌味言われるんだろうな。あの先生やたらと、絡んでくるから苦手。化粧濃いし。香水臭いし。
最悪な一日の始まりだと、嘆くけれど、止まっている暇は無い。だけども、信号に掴まってしまった。


こんな所で、私は足止めを喰らっている暇はないのだよ!早く、さっさと信号変われ、変われ!
私が殺気立っていると、周りで信号待ちをしていた人達が三歩後ろに引いて行った。
そして広がる視界に見覚えのある後姿が目に入った。





「あ」


「やっぱり、紫乃ちゃんだ」


「遊戯君!」


おはよう、と言って私は一歩前に出た。寝不足なのか、遊戯君の目の下には少し隈が出来ていた。
不意に自分にも隈が出来ていないか、気になった。寝癖は一応直してきたのだが。





「珍しいね、遊戯君がこんなギリギリなんて」


さっきまで、最悪だと嘆いていたのが嘘の様に、遊戯君と一緒に学校!とか、浮かれる自分に呆れる。
「たった、一限だけ蝶野先生に嫌味を言われたっていいじゃないか!」なんと言う早さで立ち直る自分。


「紫乃ちゃんこそ。いつもはもっと、早いのに」


「あ、アハハ!ちょっと、デッキを改良してて…寝坊しちゃったんだ」


クリボーを3枚積もうか迷って、結局は今まで通りの1枚だけ。
……いつか、クリボーリスペクトデッキ作りたいな!





「僕も。もう一人の僕と一緒に新しいデッキを考えてさ、マジックやトラップで、どれを入れるか迷っちゃって」


「適当に決めちゃったら、いざデュエルして、あのカードを入れておけば良かったなんて思いたくないし、真剣になるよね」


「そうそう!その分、真剣に選び抜いたカードだから、安心して闘えるし」


私達は信号前でデッキ構築の話から、戦術、新しいパックで何が当たったとかの話に盛り上がっていた。
いつの間にか、信号は赤から青へ、青から黄色、そして赤へ。それを四回も繰り返していた。





その日の童実野高校一年B組の教室前の廊下ではクラスで一番身長の高い女子と、クラスで一番身長の低い男子が立たされていた。
遅刻はしていないが、二人共宿題を忘れたとか。





遅刻寸前
(紫乃ちゃん、本当は宿題やったでしょ)(え!や、やってない!デッキ組み終わってから宿題なんか、そんな面倒な事誰が!)


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