「痛い痛い痛い!海馬君って、本当に激しいね…もっと、優しくしてくれないかな」
「黙れ!この俺直々に手当てしてもらっているだけでも、ありがたいと思え!大体…全て、貴様が悪いと言うのに何故、俺がこんな事をしな「海馬君。煩いよ」
「ゆ、遊戯ッ!」
「大体、海馬君がバトル・シティの宣伝に力を入れ過ぎちゃったから、医療班の人だって、準備で大変そうなんだから。
人に(それも、紫乃ちゃんに)怪我させちゃったんだから、怪我を負わせた人が手当てするくらいは――当たり前だよね?」
ねぇ、海馬君。
かくかくしかじかで、海馬君のデュエルディスクの角で、負傷した私は三途の川なるものを渡り掛けていた。
川の向こう岸の綺麗なお花畑から、写真で見た事のある父方の亡くなった祖父母が手を振っていた。
しかし、悲しいかな。体が丈夫な事がとりえの殆どの割合を占めている私は気を失いはしたが、数分もしない内に目を覚ました。
そこで目にした光景は――いつの間にか、男の子らしくなっていた遊戯君と、酷く怯えている海馬君の姿だった。
私が気を失った数分の間に何があったのかは誰も語ろうとしない。
今も遊戯君にかるぅく小突かれながら、あの海馬君が私の手当てをしてくれているのだ。
「社長。トーナメント参加のデュエリストが揃いましたので、バトルシップ離陸を開始します」
聞き覚えのある女の人の声に、振り返る。
「それと、お友達とお戯れになっている暇はないはずですよ。早く仕事に戻って下さい。私と磯野さんでは手が回りません」
「俺が好きでこんな事をしていると思うか!まぁ、丁度いい鏡野。お前にこいつの手当を任せる」
「お、お姉さん…?何してるんですか」
昨夜から、勤め先の会社に泊まり込んで、仕事をしているはずの千年お姉さんが私達の目の前に現れた。
それも、海馬君の事を社長と呼んで、海馬君の部下である黒服を着てである。
「勤め先の会社の仕事をしております」
遊戯君も吃驚して目を大きく剥いている。私は気の抜けた声を返し、ただお姉さんを見つめ返す事しか出来ない。
「その勤め先と言うのが、海馬コーポレーションなのです。そしてこのふんぞり返っているのが上司です」
黙っていて、ごめんなさいね。遊戯君も。
急に畏まった様子で言われ、我が耳を疑う。遊戯君と二人して、目を点にしてしまう。
尚、お姉さんを見つめると、お姉さんは懐から、サングラスを取り出して、それを掛けた。
まさに、KCの黒服!
「知らなかった…!」
「ふん、阿呆が」
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