「遊戯君!これを見て」
「漠良君!それ千年リング!!」
ふと、漠良君が声を上げた。その手にあるものを見て遊戯君はぎょっと目を剥いた。
「反応しているんだ。新たな千年アイテム所持者に!」
千年リングの針の一つがある方向を指し示す。
振り向くと、その方向から、一人の男が現れた。あれはさっき、ぶつかった人だ。
「貴様がマリクか」
「いかにも…」
真っ直ぐにこちらに歩を進める男は遊戯君の前で立ち止まり、静かに遊戯君を見下ろした。
海馬君が訊ねると、男は低い声で短く返した。
「オシリスの所持者――武藤遊戯。オベリスクの海馬瀬人よ…必ずやそなた達を倒し、神のカードを頂く」
言いながら、再び歩み始めたマリクは最後に私に一瞥くれて、通り過ぎて行った。
あの人が、マリク…?
レア・ハンターを通していた時と随分雰囲気が違う様な気がする。底意地の悪い、残酷で子供みたいなあのマリクとは思えない。
あの人はとても、静かな瞳をしていたけれど、ピリピリと体の奥が痺れる様な闘気を放っていた。
「え、何で飛行船が!」
「貴様…磯野の話を聞いていなかったのか」
突然、耳に飛び込んできた轟音に飛び上がって、驚いた。音のした頭上を見上げると、何と飛行船が降下してくるではないか。
何でどうしてだと、一人慌てていると、離れている場所から、海馬君がギロリと、鋭い目で私を睨む。
海馬君に磯野と呼ばれる強面の黒服の人から、決勝トーナメントの参加証であるIDカードを受け取る、とこまでは覚えている。
後はマリクの事を考えていて、さっぱり……うん、聞いてなかったです。
あの飛行船はバトルシップといい、トーナメントの一回戦の舞台は高度一〇〇〇m上空らしい。
流石、海馬君。やる事成す事、常人離れしている。
偉大な人程、おかしいとよく言うし、きっと、君は歴史に名を残す人になるだろう。
凄いや凄いやと、言っていると、わざわざ海馬君は私の前まで歩み寄り、デュエルディスクの角で頭をど突いてきた。
「か、海馬君!今しちゃいけない音が頭からしたッ!」
がぐしゃ!ってがぐしゃって変な音がした!
いつも割りとクールな海馬君は今日は気が立っているらしく、話すのも嫌だと言う様な目で私を見た。
「俺に話し掛けるな。貴様の能天気が移る。ふん!それに貴様なんぞ、丈夫なだけがとりえだろうに」
「そう、それだけが自慢なんだけどね!今日はちょっと、色んな人に襲われて…っ…!」
あぁ、駄目だ意識が…!
打ち所が悪かったらしく、意識が簡単に沈む。
「紫乃ちゃん!紫乃ちゃん!?…よくも、紫乃ちゃんを、覚悟しろよこの――!!」
「紫乃!目覚ませぇ!遊戯止められんのはお前だけだ!」
「うあああ、遊戯君が怖いよおお!」
「遊戯!れ、冷静になれ!」
「いいぞ、遊戯!紫乃の仇を討ってやれー!」
「僕も紫乃さんの敵討ちに参加するー!」
本田君に揺さぶられ、泣き喚く御伽君、焦る海馬君、煽る城之内君、楽しそうな漠良君の声が酷く遠くに聞こえた。
END
← | →