カードショップを出た後、杏子ちゃんはバイトの為、そのままバイト先へ。本田君と漠良君も用事があるので、その場で別れた。
私は城之内君と一緒に遊戯君の家にお邪魔する事にした。明日のバトル・シティへ向け、デッキ調整だ。
「紫乃」
「…え、何?城之内君、遊戯君」
遊戯君が城之内君のデッキを見てる間に自分のデッキをチェックし様とカードを手に取り、数分。
不意に声を掛けられて、視線を上げた。すると、二人の視線が自分に集中していて、思わず身じろぎした。
「カード逆さまだよ」
遊戯君に指摘され、カードを見ると、なんと!コマンド・ナイトのカードが逆様だった。
うあああ、恥ずかしい!慌てて、軽く笑いながら、誤魔化した。
「今日は本当にどうしたの?元気ないようだけど…」
曖昧に頷いたが、それから先の言葉が出てこない。目を伏せると、じぃっと遊戯君に見上げられた。
今の彼には誤魔化しがとか利かない様な気がする。これ以上見詰め合っていたら、泣き出しそうだ。
「おら、吐いてみろよ。ちっとは楽になるぜ」
城之内君にグイッと首に腕を回されて、強制的に視線が遊戯君から、逸れた。
軽く技を掛ける真似をする城之内君。少し揺さぶられるのが妙に心地よい。私は一瞬、迷ったが徐に口を開いた。
「実は、昨日…友達にいや、幼馴染と久しぶりに再会したんだ。本当に久しぶりに会って、それでまぁ――ちょっと、色々あって、その子に酷い事…言っちゃったんだ」
最後の方は徐々に小さな声になり、表情も自分でも分かる程険しくなる。
謝らなきゃって思っても、何て言っていいのか、分からないんだ。昔だったら、次の日には謝って何事も無かった様にすぐに笑い合えた。
謝り方が分からないんだ。昔は出来た事なのに、生まれてから、ずっと、隣にいたから、互いの気持ちをよく分かっていたつもりだった。
でも、今は始めてこんなに長い時間を離れた土地で過ごして、気持ちを上手く伝えられなくて、陸に酷い言葉をぶつけた。
「…普通に"ごめん"の一言でいいじゃねぇか?お前がその幼馴染に何て言ったか、知らねぇけど」
少し黙って、城之内君が頭を掻きながら、口を開いた。彼も言葉を探しながら、慎重言っている。
それから、先何と言っていいのか、上手く言葉が見つからなくて、唸っていると、「幼馴染なんだからさ」と、遊戯君が続きを言った。
そうそう!と頷いて城之内君は続けた。
「たった一言だけでも、気持ちがこもっていればその子は分かってくれるはずだよ」
「それでも、分かってもらえねぇんなら、分かり合えるまで殴り合ってでも、気持ちぶつけろよ」
「ま、素直に謝るのが一番だけどな」
殴り合いはちょっと、乱暴なだ。そう城之内君は小さく笑って、私の頭をいつもの様にぐちゃぐちゃに撫で回した。
痛いけど、痛いはずだけど、感覚が麻痺している様に痛みは感じなかった。代わりにじんわりと、無い胸が熱くなった。
「うん、そうだよね…それだけで、いいんだね」
視界が滲んできた。俯いたら、涙が零れそうなので、思いっきり、天井を見上げた。
気持ちを込めて、一言でもいいから、素直に謝る。二人に話を聞いてもらって、そう言ってもらって、心が軽くなった。
「話を聞いてくれてありがとう。早速帰って、電話で謝るってくるよ!」
本当は面と向かって言いたいんだけど、と苦笑しながら、鞄とデュエルディスクを持って、立ち上がった。
「じゃあ、また明日!」
「おう!」
バトル・シティで。
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